ブーレーズ&ニューヨーク・フィルによるラヴェルの≪ダフニスとクロエ≫を聴いて
ブーレーズ&ニューヨーク・フィルによるラヴェルの≪ダフニスとクロエ≫(1975年録音)を聴いてみました。
精緻にして、明晰な演奏であります。輪郭線がクッキリとしていて、キリっとした佇まいの中に、この作品の音楽世界が克明に描かれてゆく。
と言いましても、決してか細い演奏になっている訳ではありません。繊細でいながら、しっかりとした劇性を備えている。そして、オーケストラ全体のマスとしての迫力も充分で、逞しい音楽となっている。鮮烈な演奏だとも言いたい。もしくは、精悍な顔つきをしている演奏だとも言えそう。しかも、音楽から何とも言えない妖艶な(時に媚びるような、或いは、極めて健康的な)色気が漂ってきている。
客観性が高くて、作品をちょっと突き放したところで音楽をやっているような雰囲気も感じられはするが、しっかりと掌中に収めながら、作品が持っている「生命力」を十全に解放している演奏が展開されている。そして、作品への共感と敬愛とに満ち溢れている。であるが故に、冷たさが微塵も感じられないのであります。この作品が持っている色彩感の鮮やかさも充分。
最終場での躍動感や、昂揚感も見事。それ以前の場面以上に、鋭利で鮮烈な演奏が繰り広げられています。
全編を通じて、内容がギッシリと詰まっている演奏。
ブーレーズらしさが存分に出ていながらも、多面的な面白さを湛えている、頗る魅力的な演奏であります。
なお、ブーレーズは、1994年にベルリン・フィルと同曲を再録音しており、そこでは、ブーレーズらしい鮮烈さの中に、暖かさやふくよかさが加えられた豊饒な演奏が繰り広げられています。そこへゆくと、ニューヨーク・フィルとの旧盤は、より率直でストレートな演奏だと言えましょう。それでいて、この旧盤も必要十分に豊饒な演奏となっている。
新旧ともに、甲乙つけ難い素晴らしい演奏だと思います。そのような中でも、「面白さ」においては、旧盤のほうに軍配を上げたいというのが、率直な気持ちであります。