ドラティ&デトロイト響によるバルトークの≪中国の不思議な役人≫を聴いて

ドラティ&デトロイト響によるバルトークの≪中国の不思議な役人≫全曲(1983年録音)を聴いてみました。


精密にして明晰な演奏であります。
誠にクリアな音楽づくりが為されている。音像がクッキリとしていて、音楽の佇まいはスッキリとしている。そして、雑味がない。音の粒は鮮やかで、輪郭線は明瞭。更に言えば、一つ一つの音が立体的に浮かび上がってくるよう。全体的に、実にヴィヴィッドな演奏となっています。
しかも、切れ味が鋭く、頗る鮮烈な演奏が展開されています。オケも存分に鳴り切っています。それでいて、うるさいとは思えない。暴力的でもない。むしろ、美感のある音が鳴り響いている。そして、整然とした音楽が繰り広げられている。それもこれも、細部の磨き上げが、頗る丹念であるが故なのでありましょう。
誠に知的な演奏だと言えましょう。

そのような演奏ぶりが示されていつつも、聞こえてくる音楽は冷たくありません。外見だけを取り繕ったものでもありません。
なるほど、以前の演奏では、明快ではあるものの、潤いの薄い演奏を繰り広げることもしばしばであったと言えそうなドラティ。それはそれで、痛快な音楽であるという面白味が感じられたのですが、一面的な演奏ぶりだと言えなくもありませんでした。
そこへいきますと、このデトロイト響とのバルトークは、潤いやしなやかさを備えたものとなっている。エッジの立った音楽づくりがなされているのですが、まろやかでもある。更には、情趣深さのようなものが感じられもする。
以上のような特徴を備えた上で、バルトークらしい野趣溢れる感興と、洗練味とを併せ持った演奏が展開されている。しかも、頗る熱狂的な音楽が繰り広げられている。エネルギッシュで、ドラマティックで、スリリングな音楽となっている。

バルトークを聴く歓びを満喫することのできる、なんとも見事な演奏であります。