インバル&フランクフルト放送響によるマーラーの≪夜の歌≫を聴いて
インバル&フランクフルト放送響によるマーラーの≪夜の歌≫(1986年録音)を聴いてみました。
インバルによる演奏の特徴は、精密で、細部までしっかりと磨き上げられているところにあるのではないでしょうか。全体的に、スッキリとした仕上がりとなっている。滑らかで、流麗でもある。透明感があり、清涼感が漂うこともしばしば。それでいて、充分に力感的で、情感もたっぷり。その辺りのバランスに優れているように思うのであります。
さて、ここでの≪夜の歌≫も、そのようなインバルの美質がクッキリと表されています。一言で表すならば、美演という表現がピッタリ。
ドイツの放送局所属の多くのオーケストラに共通している、機能性の高さをベースにしながら、精緻で整然としたマーラー演奏が展開されています。かと言って、冷たい演奏となっていたり、ドライな演奏になっていたりするかと言えば、さにあらず。必要十分な「熱さ」を備えている。それでいて、暑苦しさは微塵も感じられない。むしろ、爽快な音楽となっている。しかも、充分に力感に富んでいて、生き生きとしている。
スマートで、聴きやすくて、そして美しい、なかなかに魅力的なマーラー演奏。全体的に、目鼻立ちのクッキリとした演奏となっている。更に言えば、変に屈折した音楽となっておらずに、見通しが良くて、率直で明快なマーラー演奏が繰り広げられていると言いたい。
強奏部では、オーケストラは存分に鳴っているのですが、音が濁るようなことはなく、かつ、力任せになることもない。響きが硬くなることもなく、むしろ、まろやかさや柔らかみが感じられる。その様は、「チャーミングなフォルテ」と形容したくなります。もっと言えば、上品なフォルテだとも思える。
インバル&フランクフルト放送響というコンビならではの魅力がギッシリと詰まっている、ここでの≪夜の歌≫の演奏。
このような、毒気の薄いマーラーも、ときには良いものです。