テンシュテット&ロンドン・フィルによるマーラーの交響曲第5番を聴いて

テンシュテット&ロンドン・フィルによるマーラーの交響曲第5番(1978年録音)を聴いてみました。

テンシュテットといえば、燃え滾るような情熱が迸る演奏を繰り広げてくれる指揮者、という印象が強いのではないでしょうか。しかしながら、このマーラーの5番は、どちらかと言えば整然とした演奏になっているように思います。なるほど、第1楽章の真ん中の辺りや、第3楽章の後半部分などでは、かなり煽情的になっていて、うねりのある音楽を奏で上げているのですが、概して、冷静な演奏が繰り広げられている。例えば、第4楽章のアダージェットは、かなり遅めのテンポが採られていつつも、耽溺的なまでの陶酔感を伴った音楽にはなっていない。
そうは言いながらも、第1楽章などでは、遅めのテンポを基調として、ドッシリと腰の据わった演奏ぶりを示しつつ、十分に情念的でもあるのが、テンシュテットらしいところと言えそう。第2楽章では、落ち着いた演奏ぶりと、輝かしさとが交錯した演奏が繰り広げられている。第3楽章は、牧歌的な性格が強調されていて、伸びやかで朗らかな音楽世界が広がっているなどして、キャラクタリスティックな音楽となっている。
そんなこんなのうえで、随分と端正(もっとも、テンシュテットは燃えても端正でありましたが)な音楽を味わうことのできる演奏だと言えそう。しなやかで、抒情性に溢れてもいる(例えば、最終楽章での第2主題なんて、他の演奏からは味わえないような抒情性が表出されています)。

ユニークな魅力に包まれている素敵。そのうえで、作品の魅力を多角的に楽しむことのできる演奏。そんなふうに言えるのではないでしょうか。