モントゥー&ボストン響によるストラヴィンスキーの≪ペトルーシュカ≫を聴いて

モントゥー&ボストン響によるストラヴィンスキーの≪ペトルーシュカ≫(1959年録音)を聴いてみました。
なんとも鮮やかな演奏であります。輝かしくて、覇気が漲っている。
モントゥーは89歳で没していますが、死の直前まで精力的に演奏活動を行っていました。1961年に86歳でロンドン響のシェフに就任した際には、なんと、25年間の契約が結ばれています。そして、晩年に至るまで、若々しさを失わない生気に溢れた演奏を繰り広げてくれていました。それはもう、「万年青年」と呼ぶに相応しい。
84歳での演奏となるここでの≪ペトルーシュカ≫もまた、活力に満ちた演奏となっています。
と言いましても、「鮮烈」という表現は当てはまりそうにない。そう、鋭角的にエッジが立っている、といったスタイルの演奏とは異なるのです。キレッキレな音楽づくりによって、局面局面で勝負していると言うよりも、マスの力で訴えかけてくるような音楽となっている。そのうえで、頗る明瞭で、晴れやかで、カラフルで、多彩な演奏となっている。エネルギッシュで、力感に富んでいる。音像がクッキリとしていて、終始、クリアな音楽が鳴り響いている。
しかも、これはボストン響の体質でもあるのでしょうが、決して浮ついた音楽として鳴り響いておらず、音楽に分厚さが備わっている。鮮やかでクリアでありつつも、まろやかでしっとりとした質感のようなものが備わってもいる。

外面的な華やかさと、それだけに終わらないコクの深さとを兼ね備えている演奏。そんなふうに言えるのではないでしょうか。

モントゥーは、大スキャンラスを起こした≪春の祭典≫の初演の指揮を務めたことで音楽史に大きくその名を刻んでいますが、≪ペトルーシュカ≫を初演していたのもまた、モントゥー。そんなモントゥーは、≪春の祭典≫をはじめとして、ストラヴィンスキーの作品を精力的に採り上げてきました。≪ペトルーシュカ≫もまた、積極的にセッション録音しています。数種類のライヴ録音が音盤化されていたりもする。
(モントゥーは、生涯に2度、ベルリン・フィルに客演していますが、最後の客演となった1960年での公演では≪ペトルーシュカ≫を採り上げており、ライヴ盤として世に出ています。また、当盤とは別に、ボストン響とのライヴ録音も複数が音盤化されています。)
そのような中で、このボストン響とのセッション録音は、モントゥーによるストラヴィンスキー演奏がいかに素晴らしかったかを伝えてくれる、貴重な記録となっていると言えましょう。そして、ただ単にそのようなことだけに留まらず、この作品の魅力的な演奏の一つとして永く聴き継いでもらいたい、素晴らしい演奏であると思います。