チョン・キョンファ&プレヴィンによるプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1,2番を聴いて

チョン・キョンファ&プレヴィン&ロンドン響によるプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1,2番(1975年録音)を聴いてみました。


チョンならではの、理知的であって、かつ、精彩を放っている演奏が繰り広げられています。玲瓏透徹した音楽世界が広がっているとも言えそう。
プロコフィエフならではのシリアスさやシニカルさや、この2作に込められているミステリアスな味わいや、といったものが湧き上がってくる、鋭敏な感覚に支えられている演奏となっています。演奏全体が澄み切っている。
それでいて、適度な暖かさもある。伸びやかな演奏ぶりが示されてもいる。鋭敏でありつつも暖かい、というところに、才気煥発なチョンの音楽性が感じられます。
そして何よりも、ここでのチョンの演奏は、実に生き生きとしている。その「生き生きとした感覚」というのはまさに、作品が本来持っている性格に寄り添っているが故のものだと言えましょう。多くの優れた演奏に共通して言えることだが、作品と共振している演奏だとも言いたい。

第1番の第1楽章は、静謐で、清澄な音楽が奏で上げられている。ピンと張りつめている緊張感も素晴らしい。それでいて、音楽を締め上げているような風情は皆無で、音楽が豊かに、そして自然に、息づいている。
第2楽章での疾走感、第3楽章での不気味でありつつも霊妙な雰囲気の表出なども、この作品が持っている性格とダイレクトに結びついたものとなっている。しかも、そういった要素が、頗る自然に描き出されている。チョンの、音楽に対するひたむきさが感じられもする。

第2番でも、第1楽章は、真摯で、かつ、緊迫感をもって、奏で上げられてゆく。
緩徐楽章となる第2楽章では、夢見るような歌心が披露されていて、ウットリとさせられる甘美な音楽世界が広がっている。それでいて、この楽章に散りばめられている速いパッセージでは、鋭利な感覚が示されたりもする。ときに、ユーモラスな表情を見せてくれたりもする。そういったコントラストがまた、なんとも鮮やか。
最終楽章は、リズミカルに、かつシャープに、音楽を進めてゆく。同時に、心地よい弾力性を持った音楽にもなっている。最後の箇所では、誇張のない範囲で、畳みかけるようにして、作品を結んでゆく。

両曲を通じて、チョンのテクニックは安定していて、音色は艶やかで美しいのがまた、なんとも嬉しいところ。
また、プレヴィンによるバックアップも、作品のツボをしっかりと押さえたものとなっている。誇張の無い中から、真摯な音楽が立ち上がってくる、というチョンの演奏ぶりとの相性も、頗る良いと言えよう。
そんなこんなもあって、聴いていて実に心地が良い演奏となっている。

この両曲、今一つメジャーになり切れていないかとも思うのですが(もちろん、両曲をこよなく愛している方も、多くいらっしゃることでしょうが)、ここでの演奏は、作品の魅力が率直に伝わってくる、誠に素敵なものであると思います。