ムーティ&フィラデルフィア管によるR=コルサコフの≪シェエラザード≫を聴いて

ムーティ&フィラデルフィア管によるR=コルサコフの≪シェエラザード≫(1982年録音)を聴いてみました。

久しぶりに聴き直してみた当盤。華麗で煌びやかな演奏が展開されていました。色彩感に溢れていて、エネルギッシュでもある。それでいて、必要以上に豊満にならずに、キビキビとしていて、スタイリッシュでもある。その辺りが、いかにもムーティらしい。
ムーティによる演奏は、外に向かって放射してゆくエネルギーが大きくて、なおかつ、グラマラスで豊麗なものが多い、という印象が強いように思えます。その一方で、ときに、ストイックな音楽づくりを示すことあります。その頻度は、年を重ねるごとに大きくなっているように思える。
この演奏は、ムーティが41歳のときのもので、フィラデルフィア管のシェフに就任して2年が経過した時点でのものになりますが、後年の演奏に見出すことのできるストイックさが感じられるのであります。
なるほど、全編を通じて、エネルギッシュな演奏ぶりであります。とりわけ最終楽章では、速めのテンポでグイグイと押しながら、煽情的でスリリングな音楽が奏で上げられています。しかしながら、その最終楽章においてさえも、エネルギーがひたすらに外に放射されている、といったふうには感じられない。それよりも、内側に凝縮されてゆくような音楽となっている。グラマラスというよりも、キリっと引き締まったスリムな音楽となっている。それであるがゆえに、キビキビとした歩みが、殊更に強調されてゆく。
そのうえで、ムーティならではの歌心に満ちたものとなっている。流麗さや、伸びやかさを備えてもいる。そして、リリカルな表情を湛えてもいる。
そのようなムーティの音楽づくりに彩りを添えてくれているフィラデルフィア管の艶やかで煌びやかな響きが、この演奏に独特の魅力を与えてくれている。冒頭に触れた「華麗で煌びやかで、色彩感に溢れている」という印象は、まさに、このオーケストラの体質から来るところが大きいように思えるのであります。

久しぶりに聴き直してみて、1980年代の前半の時点で、このような形でムーティのストイックな一面を垣間見ることができる演奏に遭遇したことにちょっと驚きでありました。
ムーティの音盤を俯瞰するに当たって、興味深い存在。そんなふうに言えるように思います。