マタチッチ&N響によるベートーヴェンの交響曲第2,7番(1984年ライヴ)を聴いて

マタチッチ&N響によるベートーヴェンの交響曲第2,7番(1984年ライヴ)を聴いてみました。
図書館で借りたCDでの鑑賞になります。

これは、マタチッチ(1899-1985)の死の前年に催された演奏会の記録になります。
マタチッチとN響には、長くて太い結びつきがありました。初顔合わせは1965年のスラヴ歌劇団の来日(その際にオーケストラピットに入っていたのがN響でした)であり、それ以降、定期演奏会への登壇や、イタリア歌劇団の公演での指揮など、数多くの共演を重ねております。そして、この1984年の共演が、最後の機会となった。

さて、ここでの演奏はと言いますと、豪放で強靭であり、かつ、慈愛に満ちたものとなっています。更には、とても堅固で、曖昧さがない演奏が展開されていると言いたい。
なるほど、ゴツゴツとした手触りの演奏となっています。しかしながら、音楽が硬直するようなことはない。むしろ、しなやかさを湛えていると言いたい。
しかも、呼吸の深さが感じられます。それでいて、自然な息遣いで、流れに淀みがない。硬直した音楽になっていないのは、この辺りにも依るのでしょう。
なおかつ、とても若々しい演奏が展開されている。このときマタチッチは85歳という高齢でありましたが、活力に溢れたものとなっています。気力の充実ぶりが窺えもする。
そのうえで、第2番での演奏からは、逞しさの中から湧き上がる優美さのようなものが感じられます。
また、第7番での演奏は、概して速めのテンポが採られていて、キビキビと進められていつつも、音楽が上滑りするようなことは皆無。気宇の大きさが感じられる演奏となっています。更には、この作品に相応しい推進力の豊かさや輝かしさを湛えたものとなっている。

マタチッチによるベートーヴェンの交響曲の正規録音は、チェコ・フィルとの≪英雄≫や、ローザンヌ室内管との≪田園≫と第2番など、ごく僅かでありました。
(現在では、1962年にミラノRAI響と執り行ったベートーヴェンの交響曲全曲チクルスをライヴ録音したものも、音盤化されていますが。)
そのような中で、当盤は、マタチッチによるベートーヴェンの演奏が如何に充実度の高いものであったのかを知ることのできる、貴重な記録であり、かつ、頗る魅力的な記録になっていると言えるのではないでしょうか。