ルイサダ&ティルソン=トーマス&ロンドン響によるグリーグのピアノ協奏曲を聴いて

ルイサダ&ティルソン=トーマス&ロンドン響によるグリーグのピアノ協奏曲(1993年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。

理知的にして、多感な演奏が繰り広げられています。詩情性に富んでもいる。そして、とても冴え冴えとしている。そういった印象は、とりわけルイサダに強く、T=トーマスもまた、ルイサダの演奏ぶりに感化されながらサポートしてゆく、といった感じ。
ルイサダによるピアノは、なんともニュアンス豊かなもの。弱音を主体としながら、デリケートに音楽を紡ぎ上げています。そのうえで、色彩豊かで、彩りの移ろいが鮮やかに浮かび上がってくる演奏が繰り広げられている。そういった表情付けが、とても鋭敏に為されている。
全体を通じて一貫して遅いテンポが採られている訳ではありませんが、感情を移入する際にはしばしばテンポを落として、陰影の濃い演奏ぶりが示されてゆく。そんなこんなによって、微妙な色合いの移り変わりが、作品に込められているグリーグの心情を描き出してゆく。そんなふうに言えそうな演奏となっています。
力で作品をねじ伏せよう、といった姿勢は全く感じられません。豪壮に音楽を鳴り響かせようといった意図も、殆ど見受けられない。それでいて、決してひ弱な音楽になっている訳ではなく、芯のシッカリとした音楽が奏で上げられている。ピアノ響きは引き締まったものになっていて、かつ、キリっとした表情を湛えてもいる。そのことが、決然とした印象を受けることに繋がっていると言えそう。
そのようなルイサダに、T=トーマスは同化しようと努めているように思えます。繊細にして、
表情の豊かな音楽づくりが為されている。デリカシーに富んだサポートぶりだとも言いたい。

ユニークな魅力を湛えていて、かつ、聴き応えの十分な、素敵な演奏であります。