アンネローゼ・シュミット&マズア&ドレスデン・フィルによるモーツァルトの≪戴冠式≫を聴いて

アンネローゼ・シュミット&マズア&ドレスデン・フィルによるモーツァルトの≪戴冠式≫(1972年録音)を聴いてみました。
このコンビは、1970年代にモーツァルトのピアノ協奏曲全集を完成させていますが、当盤はその中の1枚。

さて、ここでの演奏はと言いますと、なんとも篤実なものとなっています。ケレン味がなく、とてもピュアでもある。そのうえで、晴れ晴れとしている。これらのことは、A・シュミットについても、マズアについても、当てはまりましょう。
A・シュミットによるピアノからは、清々しさが感じられる。そして、とても清浄でもある。そのうえで、タッチが鮮やかで、一つ一つの音の粒立ちが美しい。
しかも、女流ピアニストにしては打鍵が思いのほか力強く、音楽そのものが逞しく響き渡っています。
そのような音づくりをベースにしながら、音楽に細やかな表情が与えられてゆく。そう、ニュアンスに富んだ音楽が奏で上げられているのであります。そして、抒情味に溢れていて、かつ、身のこなしがしなやかでもある。そんなこんなのうえで、逞しさや壮麗さや輝かしさといったものが加えられてゆく。≪戴冠式≫は、祝祭的で晴れやかな性格を持っている作品であるだけに、このようなスタイルは誠に相応しい。
そのようなA・シュミットをサポートしているマズアがまた、実に逞しくて生命力に満ちた音楽を響かせてくれています。決して大袈裟な音楽づくりではないのですが、全ての音が充実し切っている。しかも、A・シュミットのピアノと同様に、響きに清々しさが感じられる。

注目を集めることの少ない音盤だと言えるのかもしれませんが、充実感たっぷりで魅力的な演奏であると思います。