ドホナーニ&クリーヴランド管によるモーツァルトの≪リンツ≫を聴いて

ドホナーニ&クリーヴランド管が1990年代の初頭に制作したモーツァルトの後期6大交響曲集から≪リンツ≫(1990年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。
このモーツァルト集は、ウェーベルンの管弦楽曲とカップリングされている点で異彩を放っていて、ドホナーニの「こだわり」のようなものを感じ取ることができます。

さて、ここでの演奏はと言いますと、硬質な肌合いをしたものとなっています。透明感を持ってもいる。そのために、「まるでクリスタルのようだ」といったような表現がピッタリだと思われます。
やや速めのテンポを基調としながら、音楽はキビキビと進められてゆく。フォルムは、キリっと引き締まっている。過剰な主情を挟まずに、毅然とした姿勢が貫かれている演奏になっています。凝縮度が高くもある。しかも、生気を帯びていて、躍動感に満ちている。
不純物の含まれていない、ピュアな演奏。そのうえで、溌溂としている。精悍としていて、厳格でありつつも、素っ気なさはなく、親しみがあって、優美でもある。そう、凛とした美しさが感じられる演奏となっている。更に言えば、モーツァルトならではの、愉悦感や飛翔感にも不足はない。
どこにも誇張が無く、作品を等身大の姿で描き上げてくれている演奏だとも言えそう。そして、実に美しい佇まいをしている演奏となっている。
そのようなドホナーニの音楽づくりに対して、クリーヴランド管がまた、精緻な演奏で応えてくれています。贅肉を削ぎ落としたような響きが、この演奏を、より一層魅力的なものにしてくれている。
このような演奏ぶりが、モーツァルトの諸作の中でも、≪リンツ≫には殊更に似つかわしいように思えます。

ドホナーニ&クリーヴランド管の美質が凝縮されている、素晴らしい≪リンツ≫であります。