ハイティンク&コンセルトヘボウ管によるチャイコフスキーの≪マンフレッド交響曲≫を聴いて
ハイティンク&コンセルトヘボウ管(RCO)によるチャイコフスキーの≪マンフレッド交響曲≫(1979年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音源での鑑賞になります。
1885年に作曲されたこの作品は、番号付のなされていない交響曲でありますが、作曲時期で言えば、第4番(1878年完成)と第5番(1888年完成)の間に書かれたものになります。
この交響曲は、堅固な構成感を備えているというよりも、自由度が高くて、交響組曲と呼びたくなるような性格を持っている音楽だと言えましょう。劇的であり、幻想的で感傷的であり、ロマンティシズムに溢れている。とても甘美な音楽になってもいる。第1楽章などは、≪白鳥の湖≫を思わせる雰囲気を持ってもいる。
ある種、散漫な音楽だとも言えそう。そのような理由からなのでしょう、演奏頻度はあまり高くはありませんが、「交響曲」という枠組みに囚われずに聴くと、チャイコフスキーらしさの迸っている、魅力的な音楽であると思います。
さて、ここでの演奏はと言いますと、ハイティンクらしい、誠実さが滲み出ている演奏ぶりとなっています。それでいて、作品の持っている鼓動がしっかりと表出されていて、活力の漲っている演奏となっている。
この作品は、元来が、陶酔度の高い甘美にして美麗な音楽であり、芝居っ気のようなものも強く感じられる音楽だとも言えそうなだけに、ここでのハイティンクのように、堅実で格調の高い音楽づくりを施してくれることによって、音楽が下品になることから救ってくれることになる。そんなふうに思わずにおれません。そして、芝居っ気のあまり感じられない、切実な音楽が聞こえてくる。
(同じようなことが、RCOを指揮して1985年にセッション録音したR・シュトラウスの≪アルプス交響曲≫にも当てはまります。)
RCOの芳醇でコクのある響きと相まって、充実感たっぷりな演奏が繰り広げられています。
必要十分にエネルギッシュでドラマティックで、逞しくて輝かしくもある。しかも、そのような演奏表現が空転することなく、音楽的な充実に直結している。
そのうえで、じっくりと腰を据えたうえでの劇的な演奏となっているため、この作品が持っている「物語的」な要素がシッカリと描き出されていつつ、それでもなお、純音楽としての美しさが前面に出ている演奏となっている。
1970年代のハイティンクは、堅実でありつつも、決して大袈裟にならない範囲でその作品が持っている鼓動が適切に伝わってくる、生命力豊かで逞しい演奏を繰り広げてくれていたところに大きな魅力を感じています。そこへいきますと、この演奏などは、1970年代のハイティンクの美質がギッシリと詰まっていると言えそう。
そのような1970年代のハイティンクの魅力を、この作品が持っている魅力とともに存分に味わうことのできる、素晴らしい演奏であります。