アンドラーシュ・シフによるシューベルトのピアノソナタ第20番を聴いて

アンドラーシュ・シフによるシューベルトのピアノソナタ第20番(2016年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音源での鑑賞になります。

シフはここでは、ピアノフォルテによって演奏をしています。そのためもあって、古雅な雰囲気を持った、可憐な音楽が鳴り響いている。
と言いつつも、必要十分に力強くもある。ただそれが、周囲を圧倒するようなものではなく、ある種、慎ましやかなものとなっている。そして、聴く者を包み込むような優しさを持っている。
そのうえで、シューベルトらしい抒情性の備わっている音楽が展開されている。第3楽章での軽妙な味わいも、なんとも魅惑的。最終楽章では、幸福感に胸が広がるような晴れやかさを持っている。
ピアノフォルテの特性もあり、音の粒が立っていて、明瞭な演奏ぶりでもあります。それでいて、冴え冴えとした音楽世界が広がっている。清々しくて、瑞々しくもある。
そのような中において、第2楽章の中間部は、かなり壮絶な音楽となっています。シフのパッションが燃え滾っている様子が、手に取るように伝わってくる。それだけに、この楽章のその他の箇所での、虚無感を湛えているフレーズが、心に深く沁み込んでくる。シューベルト最晩年の音楽が持っている「怖さ」が、ヒシヒシと感じられる演奏となっています。

シフの音楽性の豊かさと、シューベルトのピアノソナタの魅力の双方に、存分に触れることのできる、素敵な演奏であります。