スダーン&兵庫芸術文化センター管の演奏会を聴いて

今日は、スダーン&兵庫芸術文化センター管(通称:PACオケ)の演奏会の最終日を聴いてきました。演目は、下記の3曲。
●ハイドン 交響曲第6番≪朝≫
●ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番(ピアノ独奏:児玉麻里さん)
●シューベルト 交響曲第8(9)番 ≪ザ・グレート≫

ウィーン古典派の3人の作曲家を並べたプログラム。演奏時間からすると、ベートーヴェンとシューベルトの2曲だけでも演奏会としては成立しそうですが、そこにハイドンも加えられているという、「お得な」プログラムとなっています。
ハイドンは、≪朝≫≪昼≫≪晩≫の三部作を纏めずに≪朝≫だけがピックアップされているところに、スダーンの、この曲へのこだわりや、プログラミングする際の取合せへの配慮のようなものが窺えます。
児玉麻里さんの実演に接するのは初めてのこと。音盤でも、ケント・ナガノと組んで制作したベートーヴェンのピアノ協奏曲全集の中の第3番を、前日の晩に、NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)で聴いたのが、初めてだったでしょう。その第3番では、キリッとしていて凛とした演奏ぶりが示されていて好感が持てただけに、本日の実演にも、大きな期待を寄せていました。
また、≪ザ・グレート≫では、虚飾を排した演奏が繰り広げられるのでないだろうかと、こちらでの演奏も楽しみにしながら、会場へと向かったものでした。

ホール前の花壇の様子
朝から降っていた雨も、開演前には止んでいました

それでは、演奏を聴いての印象について、まずは前半の2曲から触れたいと思います。
ハイドンは、清々しさを前面に押し出した、爽やかな演奏となっていました。そのような演奏ぶりが、この作品にはピッタリ。
フルートやファゴットが大活躍(そのことによって、ちょっとした協奏交響曲のような雰囲気が醸し出されている)で、伸びやかで、かつ軽妙に演奏されていて健闘していましたが、1st.Vnと2nd.Vnがともに3プルト、ヴィオラが2プルト、チェロが1プルト半、コントラバスが1人という絞った編成でありつつも、フルートの細かな音による颯爽としたパッセージで、音の粒がハッキリと聞こえにくかったのが、少し残念でありました。
また、第2楽章でのコンマスとチェロのトップによるソロの掛け合いは、冴え冴えとしていて情緒でたっぷりであったものの、最終楽章でのコンマスによるカデンツァがちょっと暑苦しい弾きっぷりとなっていたのが、それまでの演奏ぶりにそぐわずに、違和感を覚えてしまったのが残念なところ。ちなみに、コントラバスによるカデンツァでは、≪驚愕≫の第2楽章から、例の「びっくり」の旋律が引用されていて(突然のフォルテで聴き手を驚愕させる箇所も、コントラバス1本で演奏)、ユーモアたっぷりで噴き出してしまいました。ハイドンの作品は、このようなユーモアを織り込まれると、作品の魅力が増してきます。
続くベートーヴェンでは、児玉さんのピアノ演奏は、折り目正しさを前面に押し出したものとなっていました。それは、前の晩に音盤で聴いた演奏を彷彿させるもの。しかも、剛毅であり、ダイナミズムにも不足がなく、そのような演奏ぶりが、ベートーヴェンの5曲のピアノ協奏曲の中で唯一、短調で書かれたこの作品には相応しい。それでいて、過度に悲壮な演奏ぶりになることなく、キリっとした佇まいを示していたところも好ましかった。
その一方で、折り目正しさを出すことにウェイトを置き過ぎたせいなのか、拍節感を大事にするあまりに拍の頭が強調され過ぎていたように思え、流れにぎこちなさを感じる箇所が散見されたことと、強靭な打鍵を繰り出す際に音の潤いが薄くなっていたことが、残念ではありました。とは言え、なかなかの好演であったと言えましょう。
スダーンによるバックアップは、オーソドックスにして、安定感のある演奏ぶり。こちらもまた、過度に悲壮的になるようなことはなかったものの、音楽が軽佻になるようなことは一切なく、たっぷりとした音楽を鳴り響かせてくれていました。

さてそれでは、メインの≪ザ・グレート≫について。予想通りの、虚飾を排した誠実な演奏でありました。
そのうえで、予想していた以上に、生気に溢れていて、躍動感を備えた演奏となっていました。そして、拍の頭にウェイトを置きながらの拍節感を大事にした演奏ぶりで、目鼻立ちがクッキリとしていた。しかも、そのことによって、音の流れにぎこちなさが生まれるようなことはなかった。そう、音楽運びがキビキビとしている演奏となっていた。
そのような中で、時に思いっきりレガートを掛けて(それは、同じ音を連続して奏でられる際に頻出する)、ロマンティックな感興を描き上げもする(この点については、ベートーヴェンのピアノ協奏曲でも、しばしば見受けられました)。そのことによって、音楽にコントラストを生んでいた。
しかも、最終楽章の終結部を筆頭に、全体的に輝かしさにも不足はなかった。
≪ザ・グレート≫の音楽世界に安心しながら身を置くことのできた、好演でありました。