リヒター&ミュンヘン・バッハ管によるバッハのカンタータ集から第140番を聴いて

リヒター&ミュンヘン・バッハ管によるバッハのカンタータ集から第140番(1977,78年録音)を聴いてみました。
独唱陣には、マティス(S)、シュライアー(T)、F=ディースカウ(Br)と、錚々たる顔ぶれ。
オルガン独奏によって演奏されることも多い≪目覚めよと、我らに呼ばわる物見らの声≫の原曲は、このカンタータの第4曲になります。

リヒターらしい峻厳な演奏となっています。毅然とした音楽が鳴り響いている。その一方で、暖かみがあって、人間味に溢れてもいる。
まずもって、ここで繰り広げられている演奏の、なんと構築感の強いこと。折り目正しくて、キッチリカッチリとした演奏が展開されています。まさに造形美に溢れた音楽。そして、過度にならない範囲で、壮麗であり、重厚さを備えてもいる。その結果として、敬虔な音楽が鳴り響くこととなっている。誠に格調高くもある。
そのうえで、隅々にまで血が通っている音楽となっています。決して有頂天になって弾けている訳ではないのですが、適度な躍動感が感じられる。祭典的な華やかさにも不足はなく、息遣いが伸びやかでもある。
そんなこんなのバランスが絶妙だと言えましょう。であるが故に、充実感がいっぱいでありながら、堅苦しかったり重苦しかったりすることなく、心地よさの感じられる音楽となっている。
独唱陣も充実度が高い。特に、マティスの清楚な歌と、シュライアーによる端正な歌が、心に沁みます。と言いつつも、F=ディースカウのふくよかな歌いぶりも見事。

バッハのカンタータを聴く歓びに溢れている、見事な、そして、素晴らしい演奏であります。