アバド&ボストン響によるスクリャービンの≪法悦の詩≫を聴いて
アバド&ボストン響によるスクリャービンの≪法悦の詩≫(1971年録音)を聴いてみました。アバド38歳のときの記録。
先日、ヨッフムとボストン響という珍しい組合せによるモーツァルトの≪ジュピター≫について投稿しましたが、今回は、アバドとボストン響。このコンビによるセッション録音は、この≪法悦の詩≫とチャイコフスキーの≪ロメオとジュリエット≫をカップリングした音盤の他には、同時期に録音されたドビュッシーとラヴェルの管弦楽曲を集めた1枚があるのみです。
明快かつ鮮明な演奏であります。期せずして「明」という言葉が重なりましたが、ここにあるのは、ロシアの「暗さ」ではなく地中海的な明るさ。そして、アグレッシブにして、鮮烈な演奏となっている。キリっとしていながら、艶美でもある。
ボストン響は、元来はどちらかと言えばシットリとした音色を持っているオケだと言えるように思うのですが、ここではかなり開放的な音がしています。しかも、この曲で大活躍するトランペットは、ヴィヴラートを強烈に効かせながら、朗々と、そして颯爽と吹き上げられていて、間然とするところがない。そのうえで、弦と管がまろやかにブレンドされている音を聴かせてくれているのは流石と言えましょう。弦の厚みのあるサウンドも、素晴らしい。
オケ全体としては、開放的でありつつ、暖色系の音がしている、と言えそう。響きが色っぽくもある。
更に言えることは、とても聴きやすい演奏になっているということ。これは、大きな美徳であると思います。そして、音楽全体が存分にしなっていて、うねりにうねっている。劇的な効果も絶大。そう、誠にスリリングな演奏が展開されているのであります。躍動感も素晴らしい。歌謡性に優れている。鮮やかな色彩感が示されている。この辺りは、まさに、アバドの面目躍如たるところだと言えましょう。
そんなこんなの描かれ方によって、この作品の魅力が存分に引き出されている。「健康的な色気」と呼べるようなものが充満している。
胸のすく快演。
そしてこれは、ボストン響との共演という点も含めて、若き日のアバドの貴重な記録となっていると思います。