アリス=紗良・オットによるムソルグスキーの≪展覧会の絵≫を聴いて

アリス=紗良・オットによるムソルグスキーの≪展覧会の絵≫(2012年 サンクトペテルブルク白夜祭でのライヴ)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。

アリスは、可憐でキュートな容姿とは裏腹に、とてもダイナミックな演奏を繰り広げてゆくピアニストであると捉えています。2016年の来日公演で接することのできたリストのピアノソナタなどは、誠に野性味に溢れたものになっていた。このときの公演のポスターに書かれていた「野性的疾走感」という言葉に、大いに納得させられたものでした。
そこに、抒情性も見え隠れするような演奏を繰り広げてくれる。
2016年に実演で聴いたリストのソナタは、野性味8割、抒情性2割、といったところだったでしょうか。

さて、ここでの≪展覧会の絵≫の演奏は、そのようなアリスの特質がよく出ていると言えましょう。気宇が大きくて豪壮で、強靭で、機敏で、しかも適度に抒情的。力強さの中に、優しさを湛えたものとなってもいます。
そう、単に力で押し切るのではなく、軽妙さを湛えている。この辺りは、例えば「チュイルリーの庭」などで、よく聞き取ることができます。また、4つ目の「プロムナード」や、「カタコンベ」の後半などでは、実に精妙な音楽が鳴り響いている。
その一方で、例えば「ブィドロ」などでは、頑健にして重々しい音楽が奏で上げられている。また、5つ目の「プロムナード」(これが、最後の「プロムナード」であり、かつ、ラヴェルが管弦楽化するに当たってカットした「プロムナード」になります)では、頗る壮麗な音楽世界が広がっている。
そのような中でも、白眉は「ババ・ヤーガ」なのではないでしょうか。それこそ野性的な疾走感に満ちている。しかも、豪壮であり、壮麗であり、推進力に溢れてもいる。それはもう、胸のすく演奏が繰り広げられているのであります。ピアニスティックな魅力に溢れてもいる。
そのうえで、作品全体を通じて、感受性の豊かさが感じられる演奏となっている。知情のバランスで言えば、情(すなわち、情熱的な側面)が強いようにも思えますが、知的な要素も充分に感じられる。

これはもう、アリスの魅力がそこここに散りばめられている、なんとも魅力的な演奏であります。