ケンプ&ケンペン&ベルリン・フィルによるベートーヴェンの≪皇帝≫を聴いて

ケンプ&ケンペン&ベルリン・フィルによるベートーヴェンの≪皇帝≫(1953年録音)を聴いてみました。

ケンプは、バックハウスと並んでドイツ音楽の神髄とその精神を表現してくれる第一人者だと看做されていたと言えるのではないでしょうか。

とは言うものの、私の場合は、ケンプと言えば温厚で抒情性が豊かで、柔和な音楽を奏でるピアニスト、というイメージが強いのであります。勇壮であったり、重厚感溢れる音楽を奏でたり、といったスタイルではなく、繊細で優美で詩情豊かな音楽を示してくれるピアニストだという思いが強い。
ところが、この演奏はいつものケンプとは様相が違うのであります。これには、ケンペンを共演者に得ていることも関係しているのかもしれません。
ケンペン(1893-1955)はオランダ生まれの指揮者でありますが、ドイツ音楽やロシア音楽を得意としていて、骨太で逞しくって、重厚感溢れる音楽を示してくれることが多かった。この演奏では、ベルリン・フィルを指揮している(他にも、ケンペンはこのオケと共に録音したものが数多く遺してくれています)ということもあって、重心を低く取った分厚い響きを土台としながら、堅固で構築性の高い音楽を奏でてくれています。それはまさに、ドイツ音楽そのものであり、ベートーヴェンの音楽そのもの、といったところ。
そのようなケンペンを相手に、ケンプも力強くて勇ましい音楽を奏でてゆく。骨太でもある。
ベースには、ケンプならではの抒情性を有していながらも、猛々しさや重厚さも兼ね備えている演奏が展開されている。スケールが大きくて、大きな起伏が採られている演奏となっています。時には、ケンプとは思えないほどの打鍵の強さを示すこともある。更に言えば、峻厳な音楽づくりが為されてもいる。

しかも、気高くもある。とは言いましても、作品に対しても、聴き手に対しても、常に親密感の高い音楽が鳴り響いている。

いやぁ、ここでのケンプは凄いです。気力が漲っていて、気魄の籠った演奏が繰り広げられている。それがまた、≪皇帝≫の音楽世界に相応しい。
なんとも立派な、そして、素敵な≪皇帝≫であります。