ロジェストヴェンスキー&ボリショイ劇場管によるチャイコフスキーの≪くるみ割り人形≫全曲を聴いて

クリスマスが近づいてきましたので、チャイコフスキーの≪くるみ割り人形≫全曲をロジェストヴェンスキー&ボリショイ劇場管による演奏(1960年録音)で聴いてみました。

当盤は、ロジェストヴェンスキー(1931-2018)が30歳になる直前に録音したものになります。そのロジェストヴェンスキーは、18歳の時にボリショイ劇場でプロコフィエフのバレエ音楽≪シンデレラ≫を指揮してデビューしており、1957年にはボリショイ・バレエ団の指揮者として初来日を果たすなど、キャリアの初期の頃より同劇場とは深い関係を築いていたようです。

輪郭線が明瞭であり、かつ、音の粒の鮮やかな演奏が繰り広げられています。その分、目鼻立ちのクッキリとした演奏となっている。
更に言えば、変に甘ったるい音楽とはなっておらずに、音楽の表情が毅然としている。そう、甘口ではなく、キリっと辛口な≪くるみ割り人形≫となっていると言えそう。
とは言いつつも、決して強硬な姿勢が示された演奏となっている訳ではありません。このバレエ音楽に必要不可欠なロマンティシズムや親しみやすさは充分。煌めきにも不足はない。ただそこには、媚びを売るような素振りが一切見受けられない分、キリリとした佇まいをしている音楽が鳴り響くこととなっている。
そのうえで、第2部などでは絢爛豪華たる音楽世界が広がっている。宏壮な音楽となってもいる。また、第1幕のくるみ割り人形とハツカネズミとの戦闘のシーンなどでは、頗るスリリングな演奏が繰り広げられている。
そんなこんなも含めて、ユニークでありつつも奇を衒ったところのない、率直な態度でこのバレエ音楽に臨んでいる演奏だとも言いたくなります。

独自の魅力を湛えている≪くるみ割り人形≫。しかも、聴き応え十分。
なんとも素敵な演奏であります。