内田光子さん&テイト&イギリス室内管によるモーツァルトのピアノ協奏曲第23番を聴いて

内田光子さん&テイト&イギリス室内管によるモーツァルトのピアノ協奏曲第23番(1986年録音)を聴いてみました。

内田さんらしい、繊細にして透明感に溢れた演奏が繰り広げられています。とてもセンシティブで、内省的な演奏となっている。そして、至純とも言える美しさを湛えている。
ここでのピアノの、なんと粒立ちがクッキリとしていること。しかも、丹念に磨き上げられた精妙な音たちによって、作品が敷き詰められている。音が水晶のように透き通ってもいる。そのような一音一音を繋ぎ合わせながら、玉を転がすようにして音楽は紡ぎ上げられてゆく。そのことによって、無垢にして、天衣無縫な音楽が響き渡ることとなっている。この作品に相応しい、優美で可憐な性格がクッキリと表されてもいます。
そのうえで、両端の急速楽章は、晴朗で伸びやかな音楽が展開されている。愉悦感を湛えながら、音楽が存分に躍動している。モーツァルトならではの飛翔感も充分。それでいて、ときおり、ふっと憂いや翳りの色が差してきて、聴く者の胸を深くえぐってゆく。
その一方で、緩徐楽章となる第2楽章では、沈鬱とした音楽が奏で上げられてゆく。そこに広がっている音楽世界の、なんと玄妙なこと。しかも、過度に深刻にはなっていない。ピュアな美しさを湛えた光が差してきている。
そのような内田さんをバックアップしているテイトの音楽づくりがまた、清々しくて、しかも、溌剌としていて精彩感に溢れてもいて、この演奏を魅力あるものにすることに大きく貢献してくれている。

これでこそモーツァルト、と言いたくなる演奏。
ここでの演奏ぶりが、モーツァルトを演奏するに当たっての唯一のアプローチだなどと言うつもりはありません。しかしながら、この演奏を聴いていますと、これ以外の演奏スタイルは考えられないのではないだろうかと思えるほどに、魅惑的で、かつ、完成された音楽となっているように思えてくる。
モーツァルトを聴く幸せに存分に浸ることのできる、素敵な素敵な演奏であります。