シフ&ヴェーグ&カメラータ・アカデミア・ザルツブルクによるモーツァルトのピアノ協奏曲第20,23番を聴いて

シフ&ヴェーグ&カメラータ・アカデミア・ザルツブルクによるモーツァルトのピアノ協奏曲集から、第20,23番(1989年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。

なんとも清冽な音楽が奏で上げられています。気品に満ちている。そのうえで、繊細であり、儚さのようなものが感じられもする。
その一方で、暖かみと言いますか、手作り感と言いますか、といったものが感じられもします。よそ行きではない、自然な息吹に満ちたモーツァルト演奏。
音は澄み切っていて、誠に美しい。至純な音楽が鳴り響いている。そのような演奏ぶりを基調としながら、多感なモーツァルト演奏を繰り広げてくれています。かなり内向的な演奏だとも言えそう。それでいて、伸びやかさもシッカリと感じられる。そして、決して大袈裟な表情をしていたり、はしゃぎ回ったり、といったことはないのですが、必要十分な愉悦感が備わっている。飛翔感にも不足はない。
第20番は、短調作品でありますが、悲壮感のない演奏ぶり。音楽をギュッと凝縮させていったり、切迫感を持たせたり、といった風でもない。それよりももっと、伸びやかな音楽世界が広がっています。それはまさに、純粋な美の備わっている演奏だと言いたい。
第23番では、この作品に相応しい可憐な表情で覆われた音楽を奏で上げてくれています。陰影を持たせた音楽づくりでありつつも、十分に朗らかでもある。第2楽章での、憂愁に満ちた音楽世界の表出もまた、なんとも見事。そして、これは全楽章を通じて言えることなのですが、頗る伸びやかな音楽となっている。
そのようなシフの演奏ぶりに対して、ヴェーグの指揮は、息遣いが自然。推進力に溢れていて、かつ、立体的な音楽づくりが為されています。シフの内向的な演奏ぶりを補うかのような活力を示してくれてもいる、とも言えそう。そして、誠実味に溢れている。素朴でありつつも、典雅な雰囲気を湛えてもいる。

聴いていて幸福感を覚える、なんともチャーミングな演奏であります。

来春、シフは、カペラ・アンドレア・バルカというオーケストラと共に来日し、京都では弾き振りをしながら、ここで採り上げた2曲を演奏することになっています。
30数年前のヴェーグとの共演から、どのように変貌しているのでしょうか。その演奏に触れるのが、とても楽しみであります。