ジュリーニ&ロス・フィルによるシューマンの≪ライン≫を聴いて

ジュリーニ&ロス・フィルによるシューマンの≪ライン≫(1980年録音)を聴いてみました。

ジュリーニがロス・フィルの音楽監督のポストに就いていたのは1978-84年の6年間。この間、このコンビは10数枚の音盤を制作したのではないでしょうか。
中には≪ファルスタッフ≫全曲といった大物も録音していますが、特定の作曲家の全集を作成するようなことはなく、採り上げたい作品を個別に吟味しながら録音をしてゆく、といった方向性であったように思えます。そのため、ジュリーニの録音歴の中では、なんとなく印象の薄い期間であるようにも思えるのですが、このシューマンでの素晴らしい演奏をはじめとして、このコンビの充実ぶりには目を瞠るものがあります。

さて、ここでの演奏はと言いますと、雄渾にして、雄大なものとなっています。
気宇壮大で、骨太な逞しさに溢れた演奏となっている。それは、単に外形のみではなく、作品に宿る内面性の表出も含めての「逞しさ」。
流麗さとは最も遠いスタイルによる演奏だと言えるのではないでしょうか。ジックリと踏みしめながら、音楽が進められている。何と言いましょうか、ゴツゴツとした質感をしている(もっとも、第5楽章になって、急に、レガートを多用しながらの滑らかさが表立った演奏が展開されたりもしていますが)。感覚的な美しさを追求しているというよりも、質実剛健な演奏となっているように思えます。一言一言をシッカリと言い切っている演奏が展開されている、とも言いたい。それだけに、強い意志の貫かれている演奏となっている。
その結果として、鳴り響いている音楽は、誠に気宇の大きなものとなっている。そこからは、峻厳さが感じられもします。とても凝縮度が高くもある。そして、キリッと引き締まっていて、混じりけのないピュアな美しさを湛えている。
そう、この演奏における、音楽が見せてくれる佇まい(表現面でも、音色の面でも)の、なんと美しいこと。特に、第4楽章のゆっくりとした足取りによる壮麗な音楽では、悠久の音楽と表現したいような世界が広がっていて、惚れ惚れするほどの美しさとなっています。

ジュリーニの偉大さを感じ取ることのできる、なんとも立派な、そして、実に素敵な演奏であります。