マゼール&ウィーン・フィルによるチャイコフスキーの交響曲第5番を聴いて

マゼール&ウィーン・フィルによるチャイコフスキーの交響曲第5番(1964年録音)を聴いてみました。

マゼール(1930-2014)は、1960年代前半にウィーン・フィルとチャイコフスキーの交響曲全集を完成していますが、これはその中の一つ。
この頃のマゼールは、才気煥発と言える演奏ぶりを繰り広げながら、鮮烈な音楽世界を描き出すことが多い。この時期のマゼール、私は大好きなのであります。

さて、ここでの演奏について。
ケレン味のない音楽づくりで、とても率直な演奏が繰り広げられています。そして、劇的で、激情的。しかも、洗練味が感じられる。そう、都会的な演奏だと言えそう。
輪郭線がクッキリとしていて、メリハリの効いた演奏が展開されています。音量や、感情表現の振幅の幅が大きくもある。そのために、なんとも鮮やかな音楽となっています。
そのうえで、チャイコフスキーが、この作品に織り込んだパッションや、メランコリーな性格や、リリカルな表情や、ロマンティックな感興や、といったものが、生き生きと表されてゆく。更に言えば、とてもスリリングでもある。音楽にスピード感がある(特に、第3楽章において)。畳みかけるような勢いがある(特に、第4楽章において)。
ある種、鋭角的な演奏だとも言えそうなのですが、しなやかでもある。この辺りは、ウィーン・フィルの貢献度が高いと言えましょう。そう、ここでのウィーン・フィルの反応は、とてもしなやか。そして、奏で上げられている音は、艶やかで滑らか。持ち前の美音で、マゼールのアグレッシブな音楽づくりに、蠱惑的とも言える魅力を添えてゆく。そして、その音は、とてもホットであり、かつ、真摯。
そんなこんなによって、音楽全体からは「クールな熱気」と言えるようなものが感じられます。

これはまさに、快演だと言えましょう。
この作品の魅力、そして、若きマゼールとウィーン・フィルの魅力を堪能することのできる、素敵な演奏であります。