ギーゼキングによるモーツァルトの≪トルコ行進曲付き≫を聴いてみました

ギーゼキングによるモーツァルトのピアノソナタ全集から第11番≪トルコ行進曲付き≫(1953年録音)を聴いてみました。

ギーゼキング(1895-1956)の演奏の特徴、それは、明晰な音楽づくりにあると言えましょう。新即物主義のピアニストと評されることも多く(ただし、私は、単に新即物主義的であると言い切りたくはない)、過度なロマンティシズムを織り込まずに、客観性の高い演奏を聞かせてくれることが多い。
そのようなギーゼキングが完成させたモーツァルトのピアノソナタ全集の録音は、1950年代から70年代くらいまでに掛けて、これらの作品の規範的な演奏に接することのできる音盤の一つとして、広く聴かれていた。

さて、ここでの演奏についてであります。
ギーゼキングならではの楷書風の演奏ぶりが繰り広げられています。音の粒がクッキリとしていて、明瞭な演奏となっている。そして、誠に端正な音楽世界が広がっている。音楽全体が凛としている。崩れたところが全く無く、実に美しい佇まいをしていて、演奏全体に気品が漂っている。
音楽は、決して粘ることはない。そのために、一聴するとあまりにサラサラと流れ過ぎているように聞こえるかもしれません。と言いつつも、音楽は生気を帯びていて、充分に弾んでいる。鳴らされている音は、軽やかにコロコロと紡ぎ上げられてゆくような様相をしていて、しかも、響きが実に美しい。そして、モーツァルトならではの疾駆感や飛翔感が、シッカリと表されたものとなっている。そんなこんなによって、実にチャーミングな音楽が鳴り響いている。
その先には、全くベトつくことのない清澄なロマンティシズムを見出すことのできる演奏となっている。

或る意味、「大人の演奏」という言葉が相応しいようにも思えますが、そのような表現を超えた見事な演奏。
なんとも素敵な、そして、格調の高さが感じられる立派な演奏であります。