ミルシテイン&ヨッフム&ウィーン・フィルによるブラームスのヴァイオリン協奏曲を聴いて

ミルシテイン&ヨッフム&ウィーン・フィルによるブラームスのヴァイオリン協奏曲(1974年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音源での鑑賞になります。

なんと凛とした演奏なのでありましょう。実に気高い音楽が鳴り響いています。それでいて、気魄が漲ってもいる。
上記のことは、ヴァイオリン独奏にも、指揮者にも、オケにも当てはまるのですが、やはりここでは、ミルシテインによるヴァイオリンが、上で表現したような性格を顕著に持ち合わせているように思えます。
まずもって、ここでのミルシテインのヴァイオリンは、実に美しい響きをしている。玲瓏であるとも表現できましょう。頗る純度の高い美しさを示してくれています。格調が高くて、背筋がピンと伸びていて、高潔だとも言いたい。
しかも、そのような美しさに溺れることなく、作品を深く深く掘り下げてゆく。それは鮮烈を極めていると言いたいほどに。そのうえで、清潔感に溢れたロマンティシズムが立ち昇ってくる。真摯な情熱が備わってもいる。切々たる歌が込められてもいる。第3楽章などは、音楽が生き生きと弾んでいる。
そのような多面的な演奏ぶりに依っていながら、音楽のフォルムが崩れるようなことは全くありません。ましてや、美感を損ねるようなことは微塵も感じられない。と言うよりも、全てが有機的に絡み合って、得も言えぬ美しさを醸し出してくれている。
更に言えば、テクニックも万全。どのようなパッセージであっても、揺らぐことのない安定感をもって現実の音に置き換えられてゆく。そして、音楽があるべきところに収まり、こうあって欲しいという姿で紡ぎ出されてゆく。
そんなこんなによって、この作品が備えている生命力や、息遣いや佇まいやが、息を飲むほどに美しく、そして、確固たる姿で、描き出されていくのであります。
そのようなミルシテインをサポートしているヨッフムもまた、充実感に満ちた音楽を鳴り響かせてくれています。逞しさにも不足はない。しかも、コクが深くて、暖かみがあって、かつ、誠実味に溢れた音楽が奏で上げられている。
ウィーン・フィルは、ここでも、誠に柔らかくて、まろやかで、艶やかな音を響かせてくれていて、この演奏に素敵な花を添えている。

作品の魅力を堪能しつつ、演奏者たちの美質に存分に触れることのできる、惚れ惚れするほどに素晴らしい演奏であります。