ヨッフム&ロンドン響によるベートーヴェンの≪英雄≫を聴いて

ヨッフム&ロンドン響によるベートーヴェンの≪英雄≫(1976年録音)を聴いてみました。

どっしりと構えた、重厚感のある演奏であります。
ロンドン響は、分離の良くて引き締まっている響きや、スッキリとしたスタイリッシュな演奏を聞かせてくれる点に特徴があると思われます。そのようなロンドン響を相手に、このような演奏を繰り広げているところに驚かされます。逆に言えば、ロンドン響の柔軟性の高さが示されている、或いは、そのような能力をしっかりと引き出しているヨッフムの手腕の確かさの現れでもある。そんなふうに言えるようにも思えます。
そして、これはロンドン響との共演であることのメリットなのでしょうが、手垢にまみれていないピュアな音楽となっているように思います。ニュートラルな響きをしている。堅苦しさを感じさせない明朗さがある。その結果として、重厚でありつつも、清潔感に溢れていて、清新なベートーヴェン演奏となっている。
そのうえで、堅実でいて、気宇の大きな演奏が繰り広げられているのが、いかにもヨッフムらしいところ。しかも、ヨッフムはこの年、74歳を迎えていますが、老練という言葉は似つかわしくない若々しさが感じられます。活力が漲っていて、ダイナミックで、適度な輝かしさを備えていて、壮麗にして豊麗な音楽が奏で上げられている。そのような音楽づくりがまた、≪英雄≫には誠に相応しい。
(第2楽章の葬送行進曲の、ちょうど真ん中辺りで大きく盛り上がる場面などでは、頗る豊麗で輝かしい音楽が鳴り響いています。また、第3楽章のスケルツォなどは、推進力に満ちた演奏となっている。)

肩肘を張らずに、ス~っと≪英雄≫の音楽世界に入り込める演奏。しかも、充実感いっぱいで、聴き応え十分。
なんとも素敵な≪英雄≫であります。