リヒター&ベルリン・フィルによるハイドンの≪驚愕≫と≪時計≫を聴いて
リヒター&ベルリン・フィルによるハイドンの≪驚愕≫と≪時計≫(1961年録音)を聴いてみました。
リヒター&ベルリン・フィルによる唯一のセッション録音、そして、リヒターにとっての唯一のハイドン作品のセッション録音盤になります。そのような希少価値のみならず、演奏の素晴らしさも相まっての、注目すべき音盤であると思います。
その演奏はと言いますと、誠実さと厳格さを備えたものとなっています。どこにもハッタリがない。
堅固でありつつ、暖かみのある演奏。それは、リヒターによるバッハ演奏と共通した特徴であると言えましょう。
全編を通じて、ドッシリと構えた演奏ぶり示されています。足取りがシッカリとしてもいる。そんなこんなによって、安定感が抜群。しかも、気宇が大きく、音楽全体が充実し切っている。更に言えば、凝縮度の高い音楽が響き渡っている。≪時計≫の最終楽章での対位法的な作りをしている箇所での演奏ぶりなどには、リヒターの真骨頂が現れていると言えましょう。
それでいて、艶やかでまろやか。華美にならない範囲で輝かしくもあります。この辺りは、ベルリン・フィルの体質の現れなのでもありましょう。
そのうえで、学究的な雰囲気が漂うようなことは一切なく、生き生きとした息遣いを湛えた音楽が鳴り響いている。堅固な演奏ぶりでありつつも、弾力性を充分に備えたものになってもいる。先を急ぐようなことはなく、音楽を煽るようなことも全くないのですが、推進力や力感に不足はない。そして、感興が豊かで、温かみが感じられる。
実に立派で、聴き応え十分な、そして頗る魅力的な演奏。聴いていて惚れ惚れとしてきて、グイグイと引き込まれる。
「素晴らしい音楽を聴いた」という充実感を満喫することのできる、見事な演奏であります。