小澤征爾さんを偲んで、ボストン響とのマーラー≪千人の交響曲≫を聴く
昨日、小澤征爾さんが88歳で亡くなられたとの報が流れました(逝去されたのは、2月6日だったとのこと)。
そこで、小澤さんを偲んで、こちらを聴いてみました。ボストン響とのマーラーの≪千人の交響曲≫(1980年ライヴ)。
若手の頃は、かなり激情的で、敏捷性が高く、才気煥発とした、鮮烈な演奏を繰り広げることが多かった小澤さん。そのような演奏スタイルは、1960年代の後半から70年代前半にかけて録音された、シカゴ交響楽団やパリ管弦楽団との音盤にクッキリと刻まれていて、私個人としましては、この時期の小澤さんの演奏を最も愛しています。例えば、パリ管との≪火の鳥≫全曲などは、愛聴盤の一つ。
そのような小澤さんも、次第に、抑制を効かせながらの端正な音楽づくりへと向かっていったように思えます。そのうえで、清潔感に溢れた音楽づくりを施しながら、うちに秘めた情熱や、力感を与えてゆく、といった演奏を目指されていたように思える。折り目正しくて誠実な演奏ぶりによって、端正な演奏を繰り広げていった。スッキリとした佇まいの中に、抒情性に富んだ音楽を奏で上げていった。
そのような演奏が多くなった中で、いざ実演となると、あからさまな情熱が示されることも多かったように思えます。この≪千人の交響曲≫などは、その好例だと言えるのではないでしょうか。或いは、この前年の1979年にライヴ録音された、シェーンベルクの≪グレの歌≫にも当てはまりましょう。これらの音盤を聴くと、つくづく、小澤さんは「ライヴの人」だったのだなぁ、という思いを強く持ちます。
また、この両曲は、声楽を加えた大規模な作品だということでも、共通点を見出すことができましょう。小澤さんは、大規模な作品を手際よく纏め上げてゆく、という手腕に長けていたように思えます。
さて、ここでの≪千人の交響曲≫の演奏はと言いますと、骨格がシッカリしていながら、抒情的な美しさや、しなやかさが備わっていて、この大曲をスッキリと纏め上げたものとなっています。そのうえで、バイタリティがあって、感興豊かで、昂揚感の大きな演奏となっている。
頗る聴きやすい≪千人の交響曲≫。しかも、美しくて、力感にも不足のない≪千人の交響曲≫。
小澤さんの美質が十全に発揮されている、素敵な≪千人の交響曲≫だと思います。
小澤さん、長きにわたって日本の音楽界をリードして頂きまして、誠にありがとうございました。そして、お疲れさまでした。どうぞ、ごゆっくりされてください。
謹んでご冥福をお祈り申し上げます。