ワルター&シンフォニー・オブ・ジ・エアによるベートーヴェンの≪英雄≫を聴いて
ワルター&シンフォニー・オブ・ジ・エアによるベートーヴェンの≪英雄≫(1957/2/3 ライヴ)を聴いてみました。
この演奏会は、同年の1月16日に亡くなったトスカニーニを追悼して開かれたものになります。
シンフォニー・オブ・ジ・エアは、元はNBC響であり、トスカニーニが指揮活動を勇退した後に使用していた名称。そのような、かつてのトスカニーニの手兵であったオーケストラを指揮しての、追悼演奏会の記録になります。
さて、ここでの演奏はと言いますと、強い意志が貫かれているものとなっています。集中力や凝縮度の高い演奏が庫裏広がられている。
そのうえで、柔らかさと強靭さとを兼ね備えているような演奏となってもいる。しかも、豊麗でありつつ、キリッと引き締まってもいる。それらはまさに、ワルターの音楽性とトスカニーニの音楽性とが融合されたものだと言えるのではないでしょうか。
そして、あまり感傷的にならずに、毅然とした音楽が奏で上げられている。第1楽章のエンディングなどは、実に燃焼度が高くて、壮麗で輝かしい音楽となっている。第2楽章の葬送行進曲でも、確固とした足取りで進められていて、凛々しい音楽が響き渡っている。そんなこんなによって、なおさらのこと、指揮界の英雄のような存在だったと言えそうなトスカニーニを悼む気持ちが滲み出ている演奏となっているように思える。
実に貴重な記録であります。そして、実に素晴らしい演奏が繰り広げられています。
このような記録が残されていることに、ただただ感謝するのみであります。
なお、モノラルによるライヴ録音ですが、音の鮮明度はさほど低くはなく、この演奏を楽しむのに十分な音質だと言えましょう。