ルドルフ・ゼルキン&クーベリック&バイエルン放送響によるベートーヴェンの≪皇帝≫を聴いて

ルドルフ・ゼルキン&クーベリック&バイエルン放送響(BRSO)によるベートーヴェンの≪皇帝≫(1977年ライヴ)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。

風格豊かで、安定感抜群の演奏が繰り広げられています。
これと言って特別なことをしている訳でもなさそうなのですが、折り目正しさとともに、気宇の大きさを感じさせてくれる演奏となっている。その結果として、壮麗な音楽世界が広がっている。それは、まさにグランドマナーに貫かれたベートーヴェン演奏だと言えましょう。そして、そのような演奏スタイルが、≪皇帝≫には似つかわしい。
しかも、ドッシリと構えた演奏でありつつも、伸びやかでしなやかで、躍動感があって、情感も豊か。第2楽章では、優しさに満ちた音楽が奏で上げられている。推進力に関しては、とりわけ最終楽章において頗る高い。
全編を通じて誠に立派な演奏が繰り広げられていて、重厚感に不足は無いものの、必要以上に重々しくなっていない。そのうえで、作品自体が蔵しているエネルギーが見事なまでに表出されています。独奏者と、指揮者、オケとの一体感がまた、誠に素晴らしい。
そのような中で、ゼルキンによるピアノの響きは、硬質でいて、まろやかで、実に美しい。また、クーベリックによる音楽づくりは、貫禄タップリで、壮宏で、充実感が頗る高くもある。

なにもかもが充実しきっている演奏。しかも、実に率直であって、かつ、暖かみを湛えてもいる。
作品の魅力を等身大な形で味わうことのできる、そして、R・ゼルキンとクーベリックとBRSOの魅力をタップリと味わうことのできる、見事な、そして素敵な演奏であります。