ハイティンク&ウィーン・フィルによるブラームスの≪ドイツ・レクイエム≫を聴いて

ハイティンク&ウィーン・フィルによるブラームスの≪ドイツ・レクイエム≫(1980年録音)を聴いてみました。
独唱は、ヤノヴィッツ(S)とクラウゼ(Br)。

清澄な演奏が繰り広げられています。
なるほど、シンフォニックな(と言いますか、器楽的な性格の強い)演奏ぶりが示されてもいますが、清浄にして、敬虔な雰囲気に満ちている。総じて、静的な音楽世界が広がっている。更に言えば、暖かみや、柔らかみを持っている。この辺りは、ウィーン・フィルによる貢献度が高いと言えましょう。
そう、ここでのウィーン・フィルの響きは、実に美しい。しっとりとしていながら艶やかで、しかも頗る柔らかな音をしている。しかも、身のこなしが誠にしなやか。きめの細やかさが感じられつつも、適度な厚みを持っている。そんなこんなによって、惚れ惚れするほどに美しい音楽が鳴り響いています。
そのようなウィーン・フィルを相手に、ハイティンクは真摯な演奏を繰り広げている。先ほど「シンフォニック」という言葉を使いましたが、例えば第6曲などは、実にドラマティックで逞しい演奏となっています。誠に力感に溢れた音楽になっている。しかしながら、音楽が全く空転していない。むしろ、大きな凝縮度を持っている音楽となっている。外面的な効果を狙うようなことは一切感じられず、内的な充実度を高めるためにのみ作用させてゆくためだけに音楽を高らかに奏で上げている。このことは、第6曲に限らず、全編を通じて当てはまりましょう。そんなこんながまた、敬虔な雰囲気を醸し出すことに繋がっている。
ヤノヴィッツとクラウゼの独唱も、なんの衒いのない歌いぶりで、清らかにして真摯なものとなっている。ここでのハイティンク&ウィーン・フィルの演奏ぶりにぴったりだと言えましょう。

聴いていて、心の洗われる演奏。そして、心と身体が飛翔してゆくような思いに捕らわれる演奏。しかも、頗る充実度の高い演奏。
いやはや、実に素敵な演奏であります。