フルニエ&ケンプによるベートーヴェンのチェロソナタ第3番を聴いて
フルニエ&ケンプによるベートーヴェンのチェロソナタ全集から第3番(1965年 パリライヴ)を聴いてみました。
フルニエ(1906-1986)は、1947,48年にシュナーベルと、1959年にグルダと、ベートーヴェンのチェロソナタ全集を制作しており、ケンプとのものは、最後の全集となります。
「チェロのプリンス」と称されていたフルニエならではの、気品に満ちた演奏が繰り広げられています。凛とした佇まいをしている。
と言いつつも、その根底にあるのは、覇気が漲らせながら、壮健な音楽を奏で上げようという気概。第1楽章の展開部などで、そのことがハッキリと窺えます。最終楽章などは、律動感に満ちている。
全編を通じて、ベートーヴェンと、がっぷり四つに組みながら、真摯に音楽を奏でていこうという意志がヒシヒシと感じられます。それがゆえに、骨太な演奏であるとも言えそう。気宇が大きく、風格豊かでもある。
しかしながら、力で抑え込もうというようなことは微塵も感じられません。奏で上げられている音楽は、極めて伸びやか。自然で、豊かな息遣いをしてもいる。そして、優しさや、暖かさに満ちている。しかも、響きは誠に艶やか。
ノーブルなフルニエのチェロに対して、凝縮度の高さが感じられるケンプのピアノがまた、実に立派。フルニエ同様に優しさを湛えていつつも、剛健でもある。まろやかでありつつも、強靭でもある。フルニエをしっかりと支えているここでのケンプに対して、「気は優しくて、力持ち」と言いたくなります。
そのような演奏ぶりを通じて、気高くも、スケールの大きな音楽世界が目の前に広がってゆく。雄弁な演奏となってもいる。
2人の巨匠が織り成す演奏の、なんと見事なこと。聴いていて惚れ惚れしてしまう。
いやはや、なんとも素晴らしい演奏であります。