ルイージ&コンセルトヘボウ管による京都公演(11/5)を聴いて
今日は、ルイージ&コンセルトヘボウ管(RCO)の京都公演を聴いてきました。演目は、下記の3曲。
●ウェーバー ≪オベロン≫序曲
●リスト ピアノ協奏曲第2番(独奏:ブロンフマン)
●チャイコフスキー 交響曲第5番
今回の来日では、川崎、名古屋、京都、東京の4都市で、計5回の公演が持たれるだけのようです。本日の京都公演は、そのうちの3回目に当たります。
RCOの実演は、これまでに、1994年に福岡でシャイーが指揮した演奏会(メインは、マーラーの≪巨人≫)と、2001年にアムステルダムでイヴァン・フィッシャーが指揮した演奏会(メインは、リストの≪ファウスト交響曲≫)を聴いており、これが20年以上ぶりで3回目。
RCOの芳醇な響きをホールで味わうことになるのだという思いで、胸をときめかせながらホールへ向かったものでした。
なお、ホール前は、いつにも増して多くの人で賑わっていました。関西で唯一の公演ということで、周辺の音楽愛好家がこぞって駆け付けたのでしょうか。人数が多かっただけでなく、期待感に顔をほころばせている人も多かったように思えたものでした。
そして、客席はほぼ満席でありました。
さて、演奏を聴いての印象について。まずは、前半の2曲から触れることにいたします。
RCOの、格調の高い、それでいて芯があって逞しさを宿している響きに、どっぷりと身を浸すことのできた数十分間でありました。
強く印象に残ったのが、≪オベロン≫の冒頭のホルンによるソロ。遠くから聞こえてくるかのように小さな音量で吹かれ、柔らかくて、儚げで、幻想的でもあった。それがまた、夢の世界への入口、メルヘンティックな性格を持つこの序曲の開始に相応しかった。
また、第2主題をクラリネットが吹いた後、その旋律がヴァイオリンに移ったところでは、ルイージは前に進みたがっていたように見受けたのですが、ヴァイオリンは、ルイージが感じていたテンポよりもゆったりと弾いていたのも印象的でした。実は結構、頑固なオケなのかもしれません。
もっとも、≪オベロン≫は、全体的には、もう少し「夢の世界」をロマンティックに描き上げて欲しかった(冒頭のホルン以外は、そのような性格は薄かった)のですが、オケの底力を感じさせる、どっしりとした、それでいて、過度に重々しくならずに、演奏会の開幕に相応しい演奏が繰り広げられたものでした。
前半の白眉は、中プロのリストでありました。何と言いましても、ブロンフマンが素晴らしかった。
ブロンフマンにとっては、バルトークやプロコフィエフなどと並んで、リストは、相性の良い作曲家だと言えるのではないでしょうか。豪壮で、かつ、強靭なピアノを聞かせてくれました。音の粒が立っていてクリアでもあった。ダイナミックでもあった。ヴィルトゥオジティの高さが存分に発揮され、キレッキレであり、鮮烈でもあった。
その一方で、弱音では柔らかな音で音楽を紡ぎ上げる。その振れ幅は頗る大きく、コントラストのくっきりと付いた演奏となっていたのであります。
そのようなブロンフマンに対峙するルイージ&RCOもまた、ダイナミックで、かつ、しなやかな演奏で応えてくれていて、見事でありました。
木管群を中心に、音の粒がクッキリとしてもいた。決して、がなり立てるようなことはないものの、力強くもあった。そう、恰幅の良いオーケストラ演奏だった、と言えば良いでしょうか。
そのうえで、ルイージならではの、誠実にして、ケレン味のない音楽づくりが、演奏をより一層、充実したものにしてくれていた。
聴き応え十分な、素晴らしいリストでありました。
ここからは、後半のチャイコフスキーについて。それはもう、前半以上に手応え十分。充実感に満ちた演奏が展開された。
聴く前から非常に期待していた演奏会だったのですが、期待を上回る素晴らしさでありました。それは、RCOの芳醇にして豊穣な響きを、ホールで触れることができたという歓びで満たされたからでもあった。幸福感に包まれたひとときでありました。
ルイージの、誠実で端正で、しかも、十分にドラマティックな音楽づくり。しかも、息遣いが頗る自然。絶妙にして、作品の流れに沿ったアゴーギクの精妙さが、音楽を自然で、豊かなものにしてくれていた。
冒頭部分を、重々しく、そして、暗澹とした雰囲気で開始させながら、徐々に音楽に動きを持たせていき、必要に応じて音楽を爆発させてゆく、といった設計も見事でありました。冒頭楽章の序奏が終わって、第1主題が現れたところでのトロンボーンによる和音(67,71,75,79小節目と、4小節おきに4回出てくる和音)をクリアに響かせていたことなども、丹念な音楽づくりに繋がっていたと言えましょう。
印象的だったのは、第3楽章の中間部。RCOの精妙なアンサンブルも相まって、実に軽妙でありました。また、最終楽章でのコーダでは、音楽を高らかに歌い上げ、輝かしい音楽世界を築き上げてくれていた。
そのようなルイージの音楽づくりに献身的に応えてくれていたRCOがまた、惚れ惚れするほどに素晴らしかった。コクがあって、まろやかな響き。特定の楽器が突出するようなことはなく、まろやかにブレンドされていた。パワーで押しまくるようなことは皆無でありつつも、マッシブな力強さに満ちていた。第2楽章の165小節目、オケがトゥッティで強奏(強弱記号はfff)した後に、2拍の間の全休がある箇所でのホールいっぱいに響き渡っていた残響の美しさなどは、ウットリするほどでありました。
興味深かったのが、第2楽章でのホルンのソロ。うら若き女性が吹いていた(ケイティ・ウーリーという名前の奏者のようで、前半のトップも彼女でした)のですが、音量を押さえて、玄妙な音楽を築き上げていた。それは、≪オベロン≫の冒頭を思い出させてくれる音楽世界。彼女は、独特の世界を持っていそうです。
終演後、聴衆は大興奮。≪エフゲニ・オネーギン≫の「ポロネーズ」がアンコールされたのですが、それが終わって団員が舞台から引き揚げても拍手は鳴りやまない。ルイージがコンマスとあともう一人を引き連れて舞台に再登場して、改めて喝采を浴びていました。