ベーム&シュターツカペレ・ドレスデン(SKD)によるR・シュトラウスの≪アルプス交響曲≫を聴いて
ベーム&シュターツカペレ・ドレスデン(SKD)によるR・シュトラウスの≪アルプス交響曲≫(1957年録音)を聴いてみました。
ベームにとっては、このモノラル盤が唯一の≪アルプス交響曲≫のセッション録音となります。
頑健な演奏だと言えましょう。或いは、頑固一徹な演奏であると言っても良いかもしれません。
R・シュトラウスの音楽に特徴的な、とりわけ、≪アルプス交響曲≫に特徴的な、絢爛豪華さや、アクロバティックな要素や、といったものは非常に薄い演奏であるように思えます。それよりももっと、どっしりと腰を据えた音楽となっている。不器用で、愚直なまでに脇目を振らない演奏、しかも、極めて堅固な演奏になっているとも言えそう。
そうであるからこそと言いましょうか、全くこけおどしな音楽となっていません。しかも、誠にドラマティックでもある。それは、作り物のドラマではなく、真実味あるドラマとして、目の前で展開されてゆくかのよう。とりわけ、嵐の中の下山のシーンでの、大音響を轟かせながら一気呵成に音楽を進めてゆく迫力は、身震いするほどに凄まじい。この辺りは、オペラで鍛え上げたベームだからこその音楽づくりだとも言えそう。
そんなこんなによって、スケールが大きくて、壮麗な音楽が鳴り響くこととなっています。
ところで、鮮やかなカラー写真を見るような演奏ではありませんが、それでいて、モノクロ写真でもありません。セピア色のような、褪せた色合いをしている訳でもない。淡い色彩のカラーでもない。そもそもが、写真を見るような感覚を抱かせる演奏ではない。何と言いましょうか、流麗な筆致をしている訳ではなく、ケバケバしい色彩をしている訳でもないのですが、写実的な描き方をされている連作の絵画を見ているかのよう。しかもそれは、エッチング画ではなく、油彩画。ちょっとゴツゴツした感じがあって、なおかつ、写実性も備えている油彩画。どの画家を例に挙げれば良いか迷うところでありますが、デューラーの絵のような佇まいをしていると言えば良いでしょうか。
なるほど、あまり感覚的な面白さを感じさせるような演奏ではないと言えましょう。そのような中で、SKDの凛としていながら艶やかさも感じられる美音が、素敵な色合いを添えてくれています。
聴きながら、「秘すれば花」という言葉が頭に浮かんできたりもしたのですが、それよりももっと、あからさまな表現意欲の感じられる演奏だと言えるのではないでしょうか。そのうえで、とても滋味深くて玄妙で、かつ、奥行き感のある演奏になっていると言いたい。
独特な味わいや、独特の重みを持っている演奏。なんとも立派な、そして、実に魅力的な演奏であります。