セル&クリーヴランド管によるR・シュトラウスの≪家庭交響曲≫を聴いて
セル&クリーヴランド管によるR・シュトラウスの≪家庭交響曲≫(1964年録音)を聴いてみました。
セルらしい、精緻にして克明な演奏が繰り広げられています。
それでいて、必要以上にシェイプアップされた音楽になっている訳でもありません。むしろ、豊満な音楽だと言いたい。オケが存分に鳴り切っていて、拡がりの大きな音楽が鳴り響いている。
そのうえで、音楽が存分にうねっていて、随所で音楽を煽ってゆく。推進力たるや、凄まじいものがある。誠に情熱的でもある。そして、煌びやかで絢爛たる音楽世界が広がっている。
そんなこんなによって、鮮烈でスリリングな音楽が、そして、甘美にして妖艶な音楽が、聴く者の耳に届けられてゆく。
ここまで読んでこられた方は、一般的にセルの演奏に対して述べられることとは程遠い言葉が並んでいるように思われるかもしれません。
なるほどセルは、緻密な合奏をベースにしながら、端正にして高潔な音楽を奏で上げることに心血を注いでいたと言えましょう。しかしながら、私は、セルは決して「冷たい」演奏をする指揮者だったとは捉えていません。むしろ、精緻な演奏の裏側には、常に、音楽に対する途轍なく高いパッションが潜んでいた。そして、ロマンティシズムに溢れた音楽を志向していた。そのような指揮者だったと考えています。そのうえで、自制心が強く、音楽に緻密さを求めていた、と。
この≪家庭交響曲≫は、そのようなセルの姿が、余すところなく現れていると思えます。そして、ここでの演奏ぶりは、R・シュトラウスの作品の魅力を示すうえで最上級なものだと言えるように思われます。
セルの凄みが凝縮されている、そして、R・シュトラウスの音楽を聴く歓びに満ち溢れている、超絶的に素晴らしい演奏であります。