ポリーニによるシューマンの≪交響的練習曲≫を聴いて

ポリーニよるシューマンの≪交響的練習曲≫(1981年録音)を聴いてみました。

なんと豊麗で輝かしい演奏でありましょう。
テクニックの切れは抜群。とても力強くもある。しかも、音楽全体が毅然としていて、媚びを売るような気配が微塵も感じられません。音楽そのものが、キリっとした佇まいを示していると言えそう。
そのうえで、この作品に備わっている重層的な構造がシッカリと描き出されたものとなっています。凝縮度が高く、とても堅牢な演奏であるとも言えそう。と言いつつも、決して堅苦しい演奏となっている訳ではなく、しなやかさや流麗さを伴った演奏となっています。遺作の第5変奏曲などでは、夢見るような幻想的な世界が広がっている。
そんなこんなのうえで、シューマン特有の狂気も充分に表されています。それも、かなり健康的な形で。
そのような音楽づくりによって演奏は進められたうえで、終曲において壮麗にして絢爛たる音楽世界を現出してくれている。その昂揚感たるや、絶大なものがあります。それはもう、音楽の大伽藍が立ち上がっているような演奏であると言えそう。

1970年代のポリーニによる演奏に特徴的であった、硬質な肌触りをしていつつも、煌びやかで輝かしく、かつ、均整の取れたフォルムをした演奏が、ここでも広がっています。それでいて、この後のポリーニの演奏から見出すことのできるまろやかさや、丸みのようなものの萌芽を、ここに見出すこともできるように思えます。そう、シャープさが前面に押し出された演奏とはなっていないのです。
そのようなことからしても、過渡期の入口に差し掛かっているポリーニの姿がここにある。そんなふうに言えるのではないでしょうか。

いずれにしましても、この作品の魅力を存分に味わうことのできる、なんとも見事な演奏であります。
それと同時に、ピアノ独奏曲を聴く歓びを満喫することのできる、魅惑的な演奏であるとも言えそうです。