ハーン&エストラーダ&フランクフルト放送響によるドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲を聴いて

ハーン&エストラーダ&フランクフルト放送響によるドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲(2021年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音源での鑑賞になります。

ハーンらしい、玲瓏たる演奏となっています。
この作品は、ある種の妖艶さを持っている音楽と考えているのですが、ここでの演奏では、そのような性格は薄い。それよりももっと、気品に満ちた音楽が鳴り響いている。とても冴え冴えとしている。そして、知的でもある。
全体的に、キリッとした表情を湛えていて、端正な佇まいが示されている演奏であります。透徹され切っている演奏だとも言えそう。
しかも、テクニックに切れが抜群。そのために、一部の隙もない演奏が繰り広げられています。演奏のどこを取っても、粗さは全く感じられない。音楽づくりが緻密であり、磨き上げが丁寧でもある。そのようなこともあって、凛とした美しさを湛えたものとなっている。
それでいて、ダイナミックで、エネルギッシュでもある。アグレッシブでもある。そのうえで、この作品が備えているロマンティシズムや、蠱惑的な性格が、格調高く滲み出している。躍動感に溢れていて、目の覚めるような鮮やかさを持ってもいる。敏捷性が感じられもする。
そのようなハーンをバックアップしているエストラーダの指揮もまた、ダイナミックにしてエネルギッシュ。誠に雄弁な演奏ぶりであります。そのうえで、音楽づくりが丹念で、かつ、作品のツボをきっちりと押さえたものとなっていて、ハーンを巧みにサポートしていると言えましょう。

ハーンの美質がぎっしりと詰まっている、誠に魅力的な演奏であります。

フィルアップされている、ヒナステラのヴァイオリン協奏曲と、サラサーテの≪カルメン幻想曲≫でも、ハーンのテクニックが冴え渡っています。そして、キリっとした表情を湛えている。
しかも、ヒナステラでは、ストイックさや厳粛さが感じられ、ある種、凄惨な音楽が鳴り響いている。そう、演奏から「凄み」が感じられるのであります。また、サラサーテでは、この作品が持っている艶美な音楽世界が、気高さをもって描き出されているところが如何にもハーンらしい。それでいて、充分に艶やかで、激情的でエモーショナルでもある。

当盤が、現時点におけるハーンの最新盤。1979年生まれのハーンが、42歳になる年に録音されたものとなります。
明日、兵庫県立芸術文化センターへ、ハーンのリサイタル(ベートーヴェンのソナタを2曲演奏)を聴きに行くのですが、ハーンの実演に接するのは初めてのこと。
ホールで直にハーンを聴くことができる歓びと、ハーンの「今」がどんななのかを知ることへの期待とで、明日のリサイタルがいよいよ楽しみになりました。