大植英次さん&大阪フィルによる演奏会を聴いて

今日は、大植英次さん&大阪フィルの演奏会を聴いてきました。演目は、下記の2曲。
●シューベルト ≪未完成≫
●ショスタコーヴィチ 交響曲第5番

大植さんの実演に接するのは、これが4回目になります。
2011年に2度聴いた実演や、音盤を聴いての印象としましては、粘り気のある音楽づくりと精悍さが同居しているところに、大植さんによる音楽づくりの特徴があるように捉えていました。明朗なようでいて、屈折しているようにも思える。テンポは概して遅めで、じっくりと歌わせることを好んでいる。時に、大きな力こぶを見せることもある。
どちらかと言えば、作品全体の構成を重んじるというよりも、局面局面での印象的な表現を大事にしてゆく指揮者である、とも感じられる。そのために、起伏の大きな音楽を奏で上げることが多い。それも、独特の感性に依りながら。
ところが、一昨年の京響との演奏会では、磨き上げが丹念で力みかえるようなことは殆どなく、余裕をもってオケを鳴らしつつ、要所で大きな劇性を築き上げてゆく、といった演奏を聞かせてくれたものでした。
さて、今日のシューベルトとショスタコーヴィチでは、どのような演奏を聞かせてくれることになるのだろうかと、胸を躍らせながら会場へと向かったものでした。

ホール入口の様子

終演後に会場を後にしたときの思い、それは、大植さんらしい演奏を堪能できたというもの。独特の感性に裏付けられた演奏ぶりだったとも言えそう。
全体的な印象としましては、一昨年に京響との演奏会で聴いたものよりも、それ以前に大植さんに抱いていた演奏ぶりに近かったように思えたものでした。

それでは、まずは前半の≪未完成≫から。
プレトークでの話しでは、大植さんが≪未完成≫を演奏会で採り上げるのは今回が3回目で、日本では初めてになるそうです。他の指揮者が頻繁に演奏するので、採り上げるのを控えている、といった趣旨のことを仰っておられました。それでいて、暗譜で指揮をされており、やはり、この名曲を隅々まで熟知しておられるのでしょう。
その演奏はと言いますと、かなりロマンティックなもの。そして、デモーニッシュな雰囲気が強調されていました。テンポは概して遅めで、おどろおどろしさが漂っていた。
しかも、ニュアンス付けがかなり細かい。振り方も、かなり表情を仔細に付けていた。プレトークでは、この曲はウィーンの芳しい薫りを纏っている音楽だと仰っておられていましたが、ウィーン風というよりも、濃厚で、起伏の大きな音楽づくりが為されていて、「大植節」が全快な演奏ぶり。かなり厚みの感じられる、重量級な≪未完成≫でありました。「大交響曲」の様相を呈していたとも言えそう。
そのような中、第2楽章の第2主題で、テンポをやや速めて、感情過多にならずにスッキリと奏でようという意図が窺えたところに、この日の≪未完成≫における清涼剤のような働きを感じたものでした。

続きましては、メインのショスタコーヴィチについて。こちらも暗譜での指揮。
それはそれは、大熱演でありました。ちょうど1年前、PACオケ(兵庫県立芸術センター管弦楽団)を指揮しての佐渡さんによる同曲の演奏も素晴らしく、2年続けて深い感銘を受ける演奏に接することができたことに、奇妙な巡り合わせのようなものを感じたものでした。この曲は演奏映えのする作品だと言えるのでしょうか。ちなみに、大植さんも佐渡さんも、バーンスタインに師事しているところが、因縁を感じさせられるような符合であります。
さて、この日の大植さんによるショスタコーヴィチの5番は、ドラマティックにして、エネルギッシュな演奏でありました。スリリングでもあった。表現の振幅が頗る大きくて、ダイナミックでもあった。それでいて、こけおどしな音楽にはなっておらず、切実な音楽になっていた。隅々にまで血の通った音楽になってもいた。表現意欲が旺盛で、ある種の粘り気が感じられもしたのは、大植さんらしいところ。そしてやはり、精悍でもあった。そのうえで、情熱的であり、没我的でもあった。この辺りは、バーンスタインにも繋がってゆくような特徴だと言えそう。
面白かったのが第2楽章。プレトークで「パペット人形を思い起こさせる音楽」と形容されていたのですが、音の動きを意図的にぎこちなくさせたり、コンマスによるソロの終わり間際を間延びさせたりと、第三者に操られているような表情を与えていた。そのアイディアは、実に個性的でありました。但し、この楽章の最後でテンポをガクンと落として、極端なテヌートを架けていたのは、ちょっとやり過ぎだと思われましたのですが。
ということで、個性的な面も見せ、それがまた、以前から大植さんの演奏に抱いていた「明朗なようでいて、屈折しているようにも思える」という印象へと繋がってゆくのですが、全体的には真摯な演奏ぶりであり、聴き応え十分な演奏でありました。音が鳴り止むか鳴り止まないかのうちに聴衆からBravoが掛かったのですが、そのような反応も大いに頷けたものであります。

大植さん、なんとも興味深い指揮者であります。存在感の大きさがあるとも言えそう。
これから先、どのような演目を披露しながら、どのような演奏で感銘を与えてくれることでしょうか。次に実演に接する機会が楽しみであります。