ラローチャによるラヴェルのピアノ独奏曲集を聴いて

ラローチャによるラヴェルのピアノ曲集(1969年録音)を聴いてみました。
収められているのは、下記の3曲。
≪道化師の朝の歌≫
≪高雅にして感傷的なワルツ≫
≪夜のガスパール≫

冒頭の≪道化師の朝の歌≫は、スペインに題材を採っている作品であるだけに、ラローチャの「スペインの血」が騒ぐのか、鮮やかな演奏となっています。とてもリズミカルな演奏ぶりが示されている。強弱や、硬軟のコントラストがクッキリと付いてもいる。煽情的な演奏であると言えましょう。
とは言いましても、ただ単に聴き手の感情を煽るだけの演奏になっているとは思えません。そう、格調が高くて、気品の漂う演奏となっている。音楽にまろやかさが感じられもする。そのうえで、充分過ぎるほどに鮮烈。これはもう、神業であります。
この≪道化師の朝の歌≫の印象が強烈なため、以後の2曲も、あたかもスペイン音楽であるかのように聞こえてきます。それは、ラローチャのアプローチにも依るのでしょう。特に、≪高雅≫の前半は、リズミカルな曲想が前面に押し出ている音楽であるだけに、余計にその印象が強い。
しかしながら、≪高雅≫の中盤以降は、ラヴェルならではの音色の移ろいがシッカリと感じられる演奏ぶりとなっています。色合いとしましては、原色系をベースにしながら、まろやかさや暖かさも加味されてゆく、といった感じ。そのうえで、音楽に濃淡が付けられてゆく。
そんなこんなのうえで、音楽の隈取りが克明でもある。そのために、曖昧な音楽となっておらず、クリアな、そして、鮮明な音楽が展開されてゆく。≪夜のガスパール≫の終曲の「スカルボ」などでは、実に強靭で輝かしい音楽が鳴り響いている。
全体的には、華やかで、明快で、力強く、壮健なラヴェル演奏であると言えるのではないでしょうか。しかも、それらが、押しつけがましく表されるのではなく、曲想とマッチした形で提示されているところに、味わいの深さが感じられます。更に言えば、聴いていて胸のすく演奏でありつつ、品格が高くて、風格の豊かさのようなものが感じられる演奏となっている。

ラローチャの妙技を介して、ラヴェルのピアノ独奏曲の魅力を存分に味わうことのできる、聴き応え十分な、素敵な音盤であります。