ギトリス&スワロフスキー&ウィーン響によるメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を聴いて

ギトリス&スワロフスキー&ウィーン響によるメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲(1954年録音)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音源での鑑賞になります。

1922年生まれのギトリスは、2020年に亡くなる直前まで精力的に演奏活動を続けていた、あまり例を見ない超人的なヴァイオリニストだったと言えましょう

1998年の第1回別府アルゲリッチ音楽祭にも招かれ、アルゲリッチとフランクのヴァイオリンソナタを演奏してくれました。そのとき、ギトリスは既に76歳。
そのフランクを実演で接したのですが、ギトリスの演奏ぶりは、なんとも破天荒なものでありました。そのうえで、融通無碍でもあった。そして、比類のないほどに強靭な音楽となっていた。
音が汚れることを全く厭わずに、弓を弦にガンガンぶつけてきて、ダイナミックかつ逞しく音楽を奏でてゆく。更には、ボウイングは滅茶苦茶なように見えた。フレーズと、弓の上がり下がりが一致していないように感じられた部分が多かったのですが、そのようなことはお構いなしにガムシャラに弾き続けてゆく。
そんなこんなによって、とても粗い演奏が繰り広げられていた。音楽のフォルムは崩れていたと言えそう。危なっかしい演奏ぶりだとも思えた。それでいて、そのような演奏から見えてきたものは、「鬼才」と呼ぶに相応しいヴァイオリニストの姿。
出たとこ勝負、とも言えそうなギトリスの演奏ぶり。であるだけに、音楽が、今まさにここで生まれてきているのだ、といった演奏にもなっていた。
さしものアルゲリッチもたじたじといったふうで、デュオは進んでゆく。
これが、本当にフランクのソナタなのだろうか。そんな疑念を抱きながら聴いていたのですが、なんとも吸引力の強い演奏でありました。これ以上は考えられないほどにエモーショナルな演奏でもあった。それはもう、無勝手流とでも呼びたくなるような演奏スタイルでありつつ、そこには「魂の飛翔」のようなものが感じられた。

さて、今回紹介するメンデルスゾーンは、ギトリスが32歳だったときの演奏になりますが、別府で聴いたフランクを思い出させてくれる要素が多分にありました。そう、この演奏もまた、実に強靭なものとなっていたのであります。これが本当に、メンデルスゾーンの音楽なのだろうか、と思わせるほどに。
しかしながら、別府でのフランクと強烈に異なるところもある。それは、粗い演奏になっていないという点。音は艶やかであり、凛々しい。しかも、音楽のフォルムが崩れるようなことは皆無。精悍さの中から、凛とした音楽世界が立ち昇ってくる。
そのうえで、別府でのフランクと同様に、「魂の飛翔」のようなものが感じ取れる演奏となっている。

鬼才ギトリスの魅力がギッシリと詰まっている、実に素晴らしい演奏であります。