セル&クリーヴランド管によるベートーヴェンの≪英雄≫を聴いて
セル&クリーヴランド管によるベートーヴェンの≪英雄≫(1957年録音)を聴いてみました。
いやはや、なんと素晴らしい演奏なのでありましょうか。
セルの演奏を聴く際に、よく感じることなのですが、音楽する上で必要なものが全て備わっていて、不要なものは一切ない。そのような演奏が、この≪英雄≫でも繰り広げられています。
毅然としていて、かつ、凛とした表情を湛えている演奏であります。そのうえで、凝縮度が頗る高い。
贅肉がなく、キリリと引き締まっている。それでいて、音楽が痩せているようなことは全くない。音楽全体が、実に豊か。そして、充実し切っている音楽が鳴り響いている。純度が途轍もなく高くもある。
緻密でいて、力感に溢れている。強靭でいて、しなやか。厳格でいて、親密である。高潔でいて、典麗でもある。更には、厳粛な優美さ、と呼べるような気品を湛えている。
冷たさは一切感じられず、充分なる熱気が籠っています。そのうえで、逞しくて、輝かしくもある。それは、底光りするような輝かしさだと言えましょう。そして、充分にロマンティックでもある。
しかも、この作品に相応しい気宇の大きさにも不足が無い。音がむやみに解放されてゆく訳ではないのですが、頗る壮麗な音楽となっている。
≪英雄≫には、フルトヴェングラー&ウィーン・フィルによる、いわゆる「ウラニアのエロイカ」(1944年録音)があり、それが別格的なマイベスト盤なのですが、ウラニアのエロイカを除けば、このセル盤がトスカニーニ&NBC響(1953年セッション録音)と並んでのマイベスト。
これはもう、惚れ惚れするほどに素晴らしい演奏であります。
このような≪英雄≫を持ち得ていることに、幸福感を抱かずにはおれません。