ケンペ&ミュンヘン・フィルによるブルックナーの交響曲第5番を聴いて

ケンペ&ミュンヘン・フィルによるブルックナーの交響曲第5番(1975/5/25-27 録音)を聴いてみました。

66歳の誕生日を目前に控えて急逝したケンペ(1910/6/14~1976/5/12)。当盤は、死の1年前に録音された演奏になります。
ケンペは、1967年にミュンヘン・フィルのシェフに就任しております。そして、このコンビは、1970年代に入ると、ベートーヴェンとブラームスの交響曲を完成させ、続いてブルックナーの交響曲の録音をスタート。しかしながら、そのシリーズで録音されたのはこの第5番と、翌年にレコーディングされた第4番の2曲のみとなってしまいました。

さて、それでは、ここでの演奏から感じられたことについて、触れていくことに致します。
ブルックナーの交響曲と言えば、巨大な建造物を想起させられることが多いのではないでしょうか。しかしながら、ここでのケンペの演奏は、そのようなブルックナー像とは一線を画したものとなっています。
端正に奏で上げられていて、引き締まった演奏が繰り広げられている。力任せに音楽を掻き鳴らすようなことは、一切ありません。清潔感に溢れてもいる。やや速めのテンポが採られていることもあって、スッキリと纏め上げられたブルックナー演奏だと言えましょう。
では、軽量級のブルックナーかと言えば、さにあらず。オケの響きは凛としているうえで、充実し切っている。重厚という訳ではないものの、音楽全体がタップリと鳴っています。
更には、ケンペが示している作品像は、等身大なものだと言えそう。作品自身に魅力を語ってもらおう、というスタイルだとも言え、誇張は微塵も感じられません。しかも、極めて凝縮度の高い演奏となっている。そのうえで、例えば、緩徐楽章である第2楽章では、抒情味を湛えていながら、音楽はしばしば大きく盛り上がるのですが、その都度、とても輝かしい音楽が奏で上げられている。急速楽章では、逞しい推進力が備わってもいる。クライマックスでの昂揚感にも不足はなく、秀麗な音楽世界が立ち昇っている。

大上段に構えることなく、端正で親しみやすく、聴いていて心地が良く、しかも充実感いっぱいのブルックナー演奏。生命力豊かであり、薫り高くもある。
素敵な演奏であります。