クナッパーツブッシュ&ウィーン・フィルによるハイドンの≪V字≫を聴いて

クナッパーツブッシュ&ウィーン・フィルによるハイドンの≪V字≫(1962年ライヴ)を聴いてみました。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。

ハイドンの作品の枠を超えた、異形の演奏。そんなふうに言いたくなる演奏が展開されています。そして、威容を誇る演奏となっている。
まずもって、第1楽章の主部での異常なまでに遅いテンポに驚かされます。この楽章は、キビキビとしていて、颯爽とした音楽であると言えそうなのですが、そのようなものとは全く異なった世界が広がっている。しかしながら、もたれることなく、キリッとした音楽となっている。コクの深い演奏となってもいる。そのうえで、ウィーン・フィルの体質に依るところも大きいのでしょう、とてもまろやかな音楽が鳴り響いている。
そのようなこともあって、聴いてゆくうちに、その遅さに対する違和感は次第と薄まってゆく。それよりも、充実した音楽が鳴り響いている、といった充足感のほうが勝ってくるのであります。
第2楽章もまた、遅めの演奏。しかしながら、第1楽章ほどの異常さは感じられません。そのうえで、こちらもまた重々しい音楽になることなく、優美さや、人懐っこさが感じられる。そしてやはり、コクの深い音楽が鳴り響くこととなっている。
第3楽章の主部でのテンポは、他の多くの指揮者が採るものとは大きく変わらない、といったところでありましょうか。とは言うものの、どっしりとした音楽運びとなっている。それでいて、充分に溌溂としている。その一方で、トリオ部に入るとガクンとテンポを落とし、翳の濃い音楽を鳴り響かせている。そんな、主部とトリオ部とのコントラストの明瞭な演奏が繰り広げられています。
最終楽章は、第1楽章と同様に、想定外の遅さ。そして、再現部に入る直前で、大きなタメを作る。そののち、結尾部でテンポを速めて、一気呵成に音楽を結ぶ。これらの音楽づくりの、なんとユーモアに溢れていること。しかも、このような奇想天外な外面が施されていつつも、音楽全体がキリッとしているのが、実に不思議なところ。
特筆すべきは、全楽章を通じて、音に歯切れの良さが感じられる点であります。であるからこそ、遅いテンポであっても、もたれることはないのでしょう。そのうえで、遅いテンポを採ることによって、スケールの大きさや、コクの深さが生まれている。

いやはや、これはもう、クナッパーツブッシュの音楽づくりの神髄を窺うことのできる、神業と呼べそうな演奏。そんなふうに言いたくなります。
多くの音楽愛好家にも是非とも体感して頂きたい、素晴らしい演奏であります。