バックハウスによるベートーヴェンピアノソナタ第30,31,32番(ステレオでの再録音盤)を聴いて

バックハウスによるステレオ録音でのベートーヴェンピアノソナタ全集から第30,31,32番(1961,63年録音)を聴いてみました。
この全集は、私にとっては、ベートーヴェンのピアノソナタ演奏の規範となっている音盤であります。力強くて壮麗で剛毅な音楽づくりによる演奏は、ベートーヴェンの音楽そのものであると言いたい。
更に言えば、ベートーヴェンの最後の3つのピアノソナタは、私にとっては至高の作品群であります。とりわけ、第30,31番の2曲が。
第30,31番は、比較的簡素な造りをしていると言えましょう。外観上は、さほど壮大とも言えない。(31番のフーガには、壮大さが感じられますが)
シンプルで、形式から自由になっていて、幻想性のようなものを感じさせながら、その先には実に深遠な世界が広がっている。幽玄の世界とも言えるようなものが。
そして、第32番は豪壮で逞しい生命力を湛えていて、かつ、頗る構成感が強い。
そんな3つのソナタを、バックハウスは或る意味朴訥と弾いているように思えます。と言いつつも、朴訥とした佇まいの中から、毅然とした音楽の姿が浮かび上がってくる。大袈裟な素振りを見せている訳ではないものの、その世界は途轍もなく巨大なのであります。そして、滋味深くもある。
この3曲の中では、バックハウスに最も適しているのは第32番と言えるかもしれません。
ピアノ1台で、音楽の大伽藍を築き上げてゆくような演奏となっている。壮大にして、力強く、厳粛な音楽が奏で上げられているとも言えましょう。力強さのその先には、玄妙な音楽世界が描き出されてゆく。しかも、曖昧模糊とした形ではなく、クッキリとした姿を見せながら。
演奏者の「意志」が、これほどまでに凝縮されている演奏は、稀有なことだと言いたい。
その一方で、第30,31番における悠揚たる演奏ぶりも、実に趣き深い。朴訥とした趣きは、この2曲での演奏の方が第32番以上に顕著であり、それだけに、豪壮でありつつも、手作りの暖かみのようなものが感じられる演奏となってもいる。なおかつ、高潔な音楽が鳴り響くこととなっている。
やはりこれは、この至高の作品群のマイベスト盤であります。





