リヒテル&ボロディン弦楽四重奏団員らによるシューベルトの≪ます≫を聴いて

リヒテル&ボロディン弦楽四重奏団員らによるシューベルトの≪ます≫(1980年録音)を聴いてみました。
≪ます≫にしては、かなり構えの大きな演奏だと言うべきかもしれません。とてもスケールの大きな演奏となっている。そして、骨太でもある。ある種の剛毅さを備えているとも言いたい。
身内だけで慎ましやかに楽しむインティメートな雰囲気に包まれているシューベルトというよりも、大勢に対して発信されて、その大勢の聴き手の心を鷲掴みにしてゆく、そのようなタイプの演奏のように思えます。エネルギッシュでゴージャスでもある。
(そのような中、緩徐楽章である第2楽章では、比較的静謐で内省的な演奏が繰り広げられています。)
ちょっと≪ます≫のイメージからは懸け離れた感がありますが、その演奏ぶりは誠に見事。そして、エネルギッシュでありつつも、粗さは全く感じられず、緻密であり、仕上げの丁寧な演奏となっている。
そう、重厚でありつつ、精緻でもあるのです。そして、音の粒がクッキリとしている。毅然としてもいる。
総じて、エネルギッシュではあるのですが、決して暑苦しくはない演奏となっています。熱気に包まれている演奏だと言えましょうが、それが鬱陶しく感じられない。むしろ、どちらかと言えば爽やかである。そのうえで、キリっとした表情を湛えた音楽が鳴り響くこととなっている。更には、シューベルトならではの抒情性にも不足はない。
しかも、奇を衒ったところが全く見受けられない、ケレン味の演奏が繰り広げられている。そこからは、作品の魅力をストレートに伝えたいといった意志が感じられます。そして、誠に堅固な音楽づくりが示されている。
そして何よりも、音楽が充実し切っている。音の響きも、技巧も、曲想の捉え方も。
いやはや、なんとも見事な、そして、独自の魅力を宿している、素晴らしい演奏であります。





