セル&クリーヴランド管によるR・シュトラウスの≪ドン・キホーテ≫を聴いて

セル&クリーヴランド管によるR・シュトラウスの≪ドン・キホーテ≫(1960年録音)を聴いてみました。チェロ独奏は、フルニエ。
当盤は、ケンペ&シュターツカペレ・ドレスデンと並んで、同曲のマイベスト盤の1枚であります。

いやはや、超絶的に素晴らしい演奏であります。
出だしを聴いた瞬間から、一気に演奏に引き込まれてしまいます。それはもう、純美で、生き生きとしていて、軽やかでしなやかでまろやかな音楽が、耳に飛び込んでくる。
全編を通じて、実に精妙な演奏が繰り広げられています。セルによる演奏ならではの、キリッと引き締まっていて、巧緻な音楽となっている。それでいて、なんとも潤いのある音楽となっている。硬質なようでいて、弾力性を備えている。真摯でありつつ、軽妙でもある。
そのうえで、目鼻立ちがクッキリとしていて、起伏に富んだ音楽が鳴り響いています。そのために、均整の取れている演奏であり、かつ、ドラマティックでダイナミックな演奏となっている。
しかも、大袈裟な表現が採られているようには、微塵も感じられません。作品をありのままに描き上げ、それぞれのシーンに込められている生命力をありのままに表出し、丹念に磨き上げたら、このような演奏になった。そんなふうに表現できる演奏なのではないでしょうか。派手さを狙ったような素振りは皆無でありながら、底光りするような輝きが放たれてもいます。

そのようなセルに対して、フルニエもまた、気品に溢れていて、かつ、逞しさにも全く不足がなく、雄弁な音楽を奏で上げてくれています。その独奏ぶりは、セルとの共演者として誠に相応しいと言えましょう。
(この2人がベルリン・フィルと共演したドヴォルザークのチェロ協奏曲の音盤からも、そのことが窺えます。)
とりわけ、最終場面での、ノーブルで、滋味に満ちたフルニエの語り口は、心に深く沁み込んできます。

これはもう、惚れ惚れするほどに素晴らしい演奏であります。全編を通じて、ピュアな美しさに溢れている。
多くの音楽愛好家に聴いてもらいたい、そして、この素晴らしさを多くの音楽愛好家と共有したい音盤。そのような思いが、殊のほか強く湧き上がってくる演奏であります。