ベーム&ウィーン・フィルによるモーツァルトの≪ジュピター≫を聴いて

ベーム&ウィーン・フィルによるモーツァルトの≪ジュピター≫(1976年録音)を聴いてみました。

ベーム(1894-1981)による≪ジュピター≫と言えば、まずは、交響曲全集に組み込まれている1960年代初頭の凝縮度の高い演奏を最も深く愛し、次いで、1975年のウィーン・フィルとの初来日の折の覇気の漲っている演奏を愛しています。そのために、この、1976年のウィーン・フィルとのセッション録音は、あまり積極的に聴いてきていませんでした。
今回、久しぶりに当盤を聴いてみたのですが。

いやはや、この演奏も素晴らしいですね。
聴き始めるやいなや、まろやかで膨らみを帯びた響きが耳に飛び込んでくる。そのうえで、ベルリン・フィル盤ほどではないものの、凝縮度の高さを備えている。
ベームによる演奏にしては、さほどゴツゴツした感じがせずに、しなやかな演奏ぶりとなっています。とは言いましても、過度に柔和になるようなことはなく、厳粛な雰囲気を湛えている。この辺りのことは、冒頭楽章において顕著。
しかも、第2楽章では、充分に柔らかみが感じられる。甘すぎないながらも、必要十分に甘美でもあり、健やかな歌が充溢していて、抒情的な美しさを湛えている。
ゆったりとしたテンポが採られている第3楽章は、この演奏の中では最もゴツゴツとした手触りが感じられるのだが、それでもやはり、ベルリン・フィル盤と比べると優美である。そのうえで、質実剛健で、壮健な音楽が鳴り響いている。とりわけ、トリオ部では、厳粛な色合いが強まっている。
最終楽章も、ゆったりとしたテンポでありながら、第3楽章ほどのゴツゴツ感はない。そう、流麗な音楽となっているのであります。しなやかさが感じられもする。それに加えて、気宇の大きさが備わっている。特に、コーダに入ってからの、音楽が階段状に積み重なっていく場面では、ここでの音楽に相応しい壮麗さが描き出されていて、聴き手の胸に強く響いてくる演奏となっている。

晩年のベームと、ウィーン・フィルの美質がギッシリと詰まった、聴き応え十分な素晴らしい≪ジュピター≫であります。