ルービンシュタインによる≪皇帝≫を聴いて

ルービンシュタイン&バレンボイム&ロンドン・フィルによるベートーヴェンの≪皇帝≫(1975年録音)を聴いてみました。

ルービンシュタインは、1982年に95歳で没していますが、演奏活動から引退したのは1976年のこと。88歳のときに完成された、バレンボイム指揮によるベートーヴェンのピアノ協奏曲全集は、ルービンシュタインによるピアノ演奏の終着点とも言えるような記録となっています。
と言いつつも、ここでのルービンシュタインの演奏からは、老いの陰りのようなものは全く感じられません。流麗にして、覇気の漲った演奏となっているのです。

なるほど、なんとも風格の豊かな演奏であります。ゆったりと構えながら、充実した演奏が展開されてゆく。恰幅の豊かさが感じられ、揺るぎのない音楽が奏で上げられている。
そのうえで、とても華やかな演奏となっています。音楽全体がキラキラと煌めいている。開放感のようなものが備わってもいます。
暖かみがあって、親しみやすさを感じさせてくれる演奏ぶりでありつつも、毅然としている。細かなところに拘泥せずに、作品全体をズシッと鷲掴みしたかのように捉え、流麗かつダイナミックに奏で上げつつも、情感の濃やかさにも不足がない。
そんなこんなの演奏ぶりが、≪皇帝≫という愛称で親しまれているこの協奏曲(ちなみ、このニックネームは、後世の者によって与えられています)の音楽世界に、とても似つかわしいように思えます。
そのようなルービンシュタインに伍しながら、バレンボイムもまた、堂々たる音楽を、そして、まろやかな音楽を鳴り響かせてくれている。

≪皇帝≫という作品が持っている音楽世界を十全に表してくれていると言えそうな、ここでの演奏。当盤は、私にとって、R・ゼルキン&小澤さん&ボストン響とともに同曲のベスト盤となっています。
多くの音楽愛好家に聴いてもらいたい、素晴らしい演奏であります。