ムーティ&フィラデルフィア管によるマーラーの≪巨人≫を聴いて

ムーティ&フィラデルフィア管によるマーラーの≪巨人≫(1984年録音)を聴いてみました。

ムーティ(1941-)が43歳になる年の録音。それから42年が経っていますが、ムーティによるマーラーの正規録音は、当盤が唯一であります。
さて、ここでの演奏はと言いますと、率直にしてエネルギッシュなものとなっています。あまりドロドロとした音楽になっておらずに、明朗な演奏が繰り広げられている。頗る伸びやかであり、歌謡性に溢れている。彩りが豊かでもある。そのようなこともあり、この作品が備えていると言えそうな「青春讃歌」として性格がクッキリと浮かび上がってくることとなっている。
しかも、最終楽章において顕著であるように、ドラマティックな演奏が展開されている。とりわけ、最終楽章の冒頭部分は、元来が嵐のように荒々しい音楽ではありますが、そういった性格が殊更に強調されていて、音楽が存分に渦巻いている。この辺りは、ムーティが有している、オペラをはじめとした劇的要素の強い作品での適性が、遺憾なく発揮された好例だと言えましょう。更には、その直後の、歌謡性に満ちた旋律が奏で上げてゆく箇所(175小節目以降)では、切実にして甘美に歌い込まれている。
そのうえで、全編を通じて、明快な音楽が鳴り響くこととなっています。そして、艶美な音楽となっている。しかも、妖艶といったものにはなっていない。それよりももっと、健康的な美しさを湛えたものとなっている。先に「率直にして」と書きましたのも、このような印象からなのでもあります。
更には、フィラデルフィア管の、機能性の高さからくる肌触りの滑らかさや、このオケ独特の響きの艶やかさや、といったものが、この演奏をより一層聴き応えのあるものにしてくれている。

肩肘張らずに、この作品の魅力に触れることのできる、なんとも素敵な演奏であります。