チョン・ミュンフン&ウィーン・フィルによるロッシーニの≪スターバト・マーテル≫を聴いて

チョン・ミュンフン&ウィーン・フィルによるロッシーニの≪スターバト・マーテル≫(1995年録音)を聴いてみました。
独唱陣は、オルゴナソヴァ(S)、バルトリ(MS)、ヒメネス(T)、スカンディウッツィ(Bs)。
NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)に収蔵されている音盤での鑑賞になります。

宗教音楽でありつつも、ロッシーニならではの明朗な音楽世界の広がる≪スターバト・マーテル≫。そして、穢れのない清らかな美しさを湛えた音楽となってもいる。
そこへいきますと、ここでの演奏は、底抜けに明るいロッシーニ演奏となっている訳ではなく、翳の濃い音楽が鳴り響いています。その分、ウキウキ感(宗教音楽ではありますが、聴いていて天国的なウキウキ感を有している作品だと思っております)は薄く、しっかりと腰の座った演奏が繰り広げられている。
その一方で、劇性が高く、緊張感の強い演奏となっています。そのことは、とりわけ終曲において顕著に現れていますが、全編を通じて誇張のない範囲で大きな起伏が採られていて、表情豊かでもある。この辺りは、オペラを得意とするチョンならではだと言えましょう。また、翳が濃いながらも、伸びやかで、しなやかな音楽が鳴り響いている。無垢な雰囲気にも不足はない。
そのようなチョンによる音楽づくりに、ウィーン・フィルの柔らかくて艶やかな美音が、素敵な花を添えてくれています。翳の濃さや、劇的な緊張感や、といったものが巧まざる形で滲み出ているのは、オペラの演奏が本職であるウィーン・フィルの体質に依るところも大きいのではないでしょうか。

この作品に新たな光を当てた演奏。そして、聴き応え十分であり、頗る立派な演奏であります。